ガチ恋王子は結ばれたい

「新幹線では班ごとに座ってくださいね」
修学旅行一日目、学級委員長が駅のホームでそう言った。クラスメイトたちは「はーい」と返事をする。班決めの一件からクラスメイトはみんな彼に協力的だ。もちろん俺もだ。
「じゃあ、一班からどうぞ」
そんなクラスメイトたちの前で彼は嬉しそうに笑い、道を譲る。クラスメイトはぞろぞろと新幹線に乗り込んでいった。俺と波止場も一緒に新幹線に乗り込む。
「……へへ」
俺たち二人が揃っているのを見て学級委員長が嬉しそうに笑ったのは、多分気のせいではないだろう。班決めの時から薄々思っていたが、この人はクラス全員が好きな気がする。
「そこ二人は一緒でいいよね」
班のメンバーは揃ってそういい、俺たちは無事隣同士の席になった。セット扱いに感謝。
「隣……王子くんは席、窓側がいい? あ、で、でも、紫外線とか気になるかな。なら通路……?」
波止場は波止場でおろおろし始める。仕方ないので彼を窓際の席に押し込み、通路側に陣取った。
「どっちでもいいよ。気にすんな」
実際、どっちでもよかった。波止場の隣ならそこは俺にとってファーストクラスだ。いや、ここは新幹線だからグリーン席が正しいか。
波止場がほっとしたように微笑む。そして先生が点呼を始め、新幹線が滑るように発射した。
記念すべき修学旅行一日目だ。俺は波止場と買ったカーディガンではなく、てろりとした肌触りのシャツと細身のパンツを身につけていた。王子様イメージの、ちょっとかっちりした服だ。
波止場と買った可愛い系の服たちは二日目の自由行動に備え、大切にスーツケースに入れてある。もちろんしわにならないよう対策済みだ。
「楽しみだね」
緊張しつつもにこにこする波止場を見上げながら、宮子の『修学旅行中に探れば』という声を思い出していた。
探る。いざ探るとなるとどうすればいいんだろう。波止場は大抵何をきいても素直に答えてくれたので、探りを入れるなんてしたことない。しかも三国さんと接触もできてない。
「あのさ」
俺は自然な流れで三国さんの名前を出そうとした。
「三国さん」
この後自然な感じに話が続く予定だったのだが、波止場の顔が強ばった。舵を切って話を変える。
「ってかわいいよな」
低俗な話になってしまった。心の中で三国さんに謝る。波止場は顔を強ばらせながら頷いた。
「そ、そうだね。ごめん」
「なんで謝るんだよ」
背中を叩いてやる。少しだけ元気になった。ここら辺にスイッチがあるのかもしれない、なんてことを冗談みたいに考える。
ちなみに宮子はご機嫌な様子で自分の座席でスマホを見ていた。多分、先日撮った俺の写真を見ているんだろう。
避けられた理由探しは未だ続いてるとはいえ、波止場とは仲直りできたのだ。愚痴に付き合ってくれた彼女には相応の礼をしなくては。と言うわけでお礼の気持ちを込めて公園やら水族館やら道端やら、様々なシチュエーションと様々な服装で撮りまくった甲斐があった。
「猫目さん、喜んでるね」
俺の視線を辿った波止場が、宮子を見つめながらいう。宮子にお礼をするために撮影を手伝って欲しいと言えば、喜んで手伝ってくれたのだ。
「あぁ、マジで撮ってよかったな」
百枚近い写真を送ったところ、宮子は今までにないほど喜んでいた。
友達があそこまで喜んでくれるなら俺も嬉しい。絶世の美少年でよかった。
「うん……」
波止場が宮子を見ようと、少し身を乗り出す。
その拍子に彼の手が俺の手の甲に触れた。厚く柔らかな指の皮が手の甲に押し付けられ、硬い爪が浅く刺さる。
「あっ!」
それに気付いた途端、波止場は顔を真っ赤にして手を引っ込めてしまった。そのまま席で小さくなり、もごもごと言い訳する。
「ごめん、そんなつもりじゃなくて。今のは事故で」
「別に、そんな謝ることじゃないだろ」
「で、でも、でも……」
むしろ波止場と手を繋げるのは嬉しい。嬉しいと思う前に手を引っ込められてしまったが。
「ごめん……」
落ち込んだ表情の波止場。いつものことだが、流石に修学旅行一日目でこの顔をさせるのは可哀想だ。
言い訳になるが、いつもの俺ならこんなことしなかった。こうしたのは修学旅行の始まりにテンションが上がっていて、大胆な気分だったからだろう。あと、変に波止場を探ろうとして一発目で怖がらせてしまった負い目があったからだ。
「波止場」
だから彼の手を握ってしまった。波止場の手は大きくて、俺の手なんて余裕で包んでしまう。肌が重なったところが熱い。強く握ると骨の硬さまで感じられた。
波止場が唖然とし、次に頬を赤らめ、最後にぶるぶると壊れたらおもちゃみたいに震え始める。
「え、あ、何」
「ほら、これでおあいこな!」
ぱっと手を離す。手のひらに波止場の熱が残っていて、心臓がドキドキしていた。ちょっと触るだけじゃなく、強く手を握ったこと。そこにあった下心を見透かされたらと思うと少しだけ緊張する。
「…………」
波止場は震えまくった後、顔を真っ赤にしていた。前髪の隙間からでも瞳が大きく見開かれているのがわかる。そのまま手を開いたり握ったりした後、慌ててリュックからトランプを取り出した。
「お、お、王子くん、UNOしない!?」
「……それ、トランプだぞ」
「あ!」
波止場が慌ててリュックを確認するが、そもそも彼はトランプしか持ってきていない。一緒に荷物準備したのだから間違いない。散々ありもしないUNOを探した後、波止場は頬を赤くしたままこちらにトランプを差し出した。
「と、トランプ、しよう」
「いいぜ、何賭ける?」
京都につくまでの間、俺たちは持ってきたお菓子をかけてトランプをした。俺は正直三国さんの話を聞いた波止場の反応に気を取られていたが、波止場も波止場でトランプを落としたりルールを間違えたりと散々な目にあっており、結局俺がずっと勝ち続けた。
その間、彼の頬はずっと赤いままだった。