ガチ恋王子は結ばれたい

宮子と話を終え、メッセージを送ってから数時間。いくつかの授業が終わり、三時間目の休み時間に差し掛かっていた。
「(返事が来ないんだが……!?)」
スマホのチャットアプリを確認するが、波止場からの返事は来てない。
時間的に返事が来なくて当然かもしれないが、送ったメッセージには既読がついていた。そして波止場はいつも、既読をつけたらすぐ返事をくれるのだ。
もやもやする。落ち着かない。しかも波止場の席から視線を感じる。彼がどういうつもりなのか、もう本当にわからない。
そうこうしているうちに四時間目が始まった。しかし先生は来ない。
「あれ?」
「なんか来ないんだけど」
クラスメイトたちがざわつき始めたところで、学級委員長が教室に戻ってきた。
「えー、急ですが数学Bは自習になりました。この時間をホームルームとし、修学旅行の班決めをします」
学級委員長がそう言うと、わっとクラスメイトたちが盛り上がる。それからすぐに席を立ち、仲のいい生徒同士が集まり始めた。
同じ班になろーとか、こことここのグループ一緒にしない? とか、楽しそうな声が聞こえてくる。
「えー……あの、ごめん。申し訳ないんだけど、班決めはくじ引きです……」
途端、盛り上がっていたクラスメイトたちが「ええー!」と声をあげる。しかし学級委員長が死ぬほど申し訳なさそうにしていたため、その声はすぐに引っ込んだ。
「好きな人同士で組ませると、人間関係のトラブルとかそういうのがあったみたいで……。今年からくじになったそうです」
「納得いかね〜〜。先生に抗議しようぜ」
誰かがそう言い、他の誰かが「賛成!」と盛り上がる。
その中で学級委員長は少し考えてから、そっとくじを取り出した。
「このクラスは三十人だから、六人グループを五つ作る形にします。くじには班番号が書いてあるので、同じ番号の人と班を組むことになりますね。あ、僕は最後に残ったくじをもらいます」
その言葉が終わると同時に、何人かがくじを引きに向かう。
ここで争わずにきちんと列を成して引きに行くのだから、なんだかんだみんな行儀がいい。
クラスメイトたちが「どうなるかな」と囁き合う中、俺は波止場を見ていた。
「…………」
波止場は顔を真っ青にして、ぷるぷる震えていた。それが俺と違う班になってしまうのを恐れているからなのか、俺と同じ班になってしまうのを恐れているからなのか、わからない。
ただ、彼が祈るように手を組んだのだけが見えた。
「波止場……」
いつもの俺なら「波止場は俺の運命なんだから同じ班になる。何がなんでもそうする」と言っていたところだが、流石にそんな気分にはならない。
だから彼の名前を呼び、祈りを込めて自身の指先を擦り合わせた。同じ班になれますように、と。
「まだ引いてない方もどうぞ」
学級委員長がそう言い、くじを掲げる。波止場がふらりと立ち上がり、くじを引いた。盗み見た波止場のくじには「2」と書いてあった。
「(2、2か……)」
指先に祈りを込めながら、学級委員長の元へ向かう。
「皇くんが最後ですね。どうぞ」
学級委員長に二本のくじを差し出される。一度深呼吸してから、右のくじに指をかけた。しかし悩んで左に戻し、やっぱり初志貫徹だと思い右のくじを取る。
とにかく緊張して、指先が変に強ばっていた。恐る恐るくじを確認する。
そこには「6」と書いてあった。
「……は、」
外した。そう言いそうになって、口を閉ざした。学級委員長は残ったくじを確認して微笑む。
「あ、僕は2ですね」
背筋が冷たくなった。感情が顔に出てしまったのか、学級委員長が不思議そうにこちらを見つめてきた。そんな彼になんでもないと首を振り、自分のくじを握りしめた。
「(まだ、まだ何とかなる……!)」
諦めるのは早い。班行動をするのは一日目なのだから、二日目と三日目の自由行動で挽回すればいいだけだ。そう、焦ることはない。
たった一日一緒にいられないくらい、なんだと言うんだろうか。
「じゃあ、これでくじ引きは終わったので『くじ引きで班を決めた』ことになりますね」
そこで、学級委員長がそう言った。不自然に強調された言葉を前にクラスメイトたちが顔を見合わせる。
学級委員長がちらりと波止場を見て、笑って、俺のくじに手をかけた。
「王子くん。僕、実は『6』という数字に目がないんです。六班になりたいんですが、交換しませんか?」
その言葉にクラスメイトたちが湧いた。彼らは興奮した様子で集まり、あぁでもないこうでもないとくじを交換し始める。
「あ、あくまでくじ引きで決めたってことですからね? 先生にはくじで決めたっていうの、忘れないでくださいよ!」
「わかってるって! 先生にはそう言うからさ!」
誰かがそう言って、クラスメイトの集団から伸びた手が学級委員長の頭を撫でた。
彼は嬉しそうに笑った後、俺に向き直る。
「交換、いいですか? 」
学級委員長は俺の手から優しくくじを抜き取った後、2のくじを俺に握らせる。
それから、俺の耳元で囁いた。
「王子くんが元気ないと、クラスのみんなが落ち込んじゃいます」
視界の端で学級委員長が微笑んだのが見えた。
「仲直り、できるといいですね」
この学校には頭のいい人、素行のいい人、リーダーシップのある人が集まってくる。
彼はその中で学級委員長に選ばれた。しかも同じ中学だった人々からの熱烈な推薦で、だ。
今の今までその理由は知らなかったが、なるほど。
「お前、すごいな……」
これは確かに、推薦したくなる。