笑ってみて、緋咲先輩



 あれから数日経ち、未だに柊弥くんはまたいつも通り俺に話しかけに来てくれていた。もう脇をくすぐってはこないけど、今日の体育中に起きたシューズ脱げ事件、小テストで回答欄がズレて0点事件、最近流行りの可愛いキャラクターの話など、色んな話をしてくれる。そして色んなお菓子をシェアしてくれていた。

 しかも、最近気付いたことがある。柊弥くんがくれるのは、いつも甘党な俺の好みドンピシャなお菓子ばかりだ。ちょっと体に悪そうな色をした甘ーいグミやチョコレート、キャンディなどを持ってきてくれる。恐ろしく好みが合うのか、そういう物が好きって話をしたかな?と疑問に思うほどだ。


 『あ、また来てるね。2年のあの子』
 『あーいつも橋本くんに会いに来てる子ね。何繋がりだろ?』
 『橋本くんって、もしかして仲良い子には笑うのかな?』

 そして柊弥くんは目立つ。明るい声色と眩しい色合いをしていて、しょっちゅう俺に会いに来ているのもあり、最近は3年のクラス内でも俺達に視線が集まるようになった。皆のその視線は、以前よりも好奇心に満ちている。俺にはその視線が、前に付き合っていた大学生彼氏の視線を彷彿とさせる感覚がして、少し落ち着かない。

 「…緋咲先輩?どうかしました?」
 「えっ、ああ、いやなんでもない…」

 俺の考えが雰囲気に出てしまっていたのか、柊弥くんが心配そうに顔を覗き込んできた。すぐに首を振り、いつも通り顔を上げたが、その瞬間に腕をぎゅっと掴まれる感覚がした。

 「え?どうしたんだ?」
 「ちょっと外行きましょ!気分転換!」

 腕を程よく引っ張られ、されるがまま教室の外へと足が進んでいく。柊弥くんにこうやって触れられるのは、あのくすぐられた時以来だ。

 きっと、俺の様子を見て何か気付いてくれたのかもしれない。それで突然外に行こうと言ったのではないか?

 それに男子生徒2人が腕を握りながらこうして歩いているのは珍しいのか、廊下にいる生徒達がチラチラとこちらの様子を伺っているのが分かる。柊弥くんはこういうのを、気にしないのか…?

 「なんで急に外に行こうって言ったんだ?」
 「え?あー…なんとなくですよ!先輩、なんか居心地悪いのかなーって思ったんです」

 やっぱり彼は、すごく見ているんだ。人のことを、俺のことを…。

 「てか、あ!勘違いだったらすんません!!手もずっと握っちゃってて…!離しますね!」

 柊弥くんは慌てて俺の腕を離すと、その手をあわあわ空中に泳がせた。心なしか、少し頬が赤くなっている気がする。

 「…いや、勘違いじゃない。ありがとう」
 「…っ!あ、い、いえ」
 「それにしても、大丈夫か?もしかして熱でもあるのか?」
 「わー!!な、ないっす!大丈夫です!ゲンゲン元気っす!!」

 急に沸騰したように赤くなったのが気になり、熱を確かめるために頬にピトッと手を当ててみた。だけどすぐ離されていってしまった。一瞬触れた柊弥くんの顔は少し生暖かったが、熱があるほどではなさそうだ。

 「あ、悪い…。勝手に触ったりして…。顔が赤いから熱が出たかと心配になって…」
 「い、いや!全然平気ですよ!さ、さあ!テラス行って空気吸いましょ!」

 なんだか、柊弥くんがロボットみたいな動きになってしまった。どうしたんだろう?

 「…っわ、風が、」

 そして促されるままテラスに出ると、サァッと透き通った風が体中を通り抜けていくようだった。頭がスッキリして気持ちがいい。

 隣を見ると、柊弥くんが「んー!」と両手を伸ばして伸びをしている。柵に捕まりながらそれをじっと見ていたら、ニコッといつもの人懐っこい笑顔を見せてくれた。

 「ね!外来てよかったでしょ?先輩」
 「ああ…。そうだな」

____風気持ちいいな…。

 柊弥くんといると、空気がすーっと胸を通っていく。呼吸が上手くできる気がする。

 無理に取り繕わなくても、彼なら大丈夫なのかもって思えるからだろうか?

 「…ありがとう、柊弥くん」
 「っ!わ、笑っ…今笑っ…かわっ…」
 「え?」
 「あっいや!何でもないっす!」