笑ってみて、緋咲先輩



 確か、去年同じ委員会だった気がするけど、接点といえばそれだけだ。懐かれている理由はよく分からない。

 「おはよう…。竹舘くん…、なんで俺に構うんだ?」

 いつもそう聞くけど、彼の返答はいつも同じ。

 「そんなの、先輩に構いたいからっす!」

 構いたい…というのは、どういう意味だろう。竹舘くんは俺とは真逆の明るくて元気なタイプ。ハイトーンの髪色と程よいアクセサリーが似合ってて、誰にでも分け隔たりなく接することができる男の子だ。俺と違って声も大きいし、人望もある。よく友達とワイワイ楽しそうにしている所を見かける。

 そんな人が、なんで俺なんかに構いたいんだろうか。

 「別に…俺に構っても面白くないと思う」
 「え!?先輩面白いっすよ」
 「どこが…?」
 「俺が声かけると、いっつもぽかーんって口開けてびっくりしてる所とか!」
 「…俺、そんな顔してるんだな」

 竹舘くんは、いたずらっ子みたいに隣で笑ってる。俺より2センチくらい背が高いけど、目線はほぼ同じ。なのに、いつも彼は俺の顔を覗き込むようにしてじーっと見てくる。

 「てか、柊弥って名前で呼んでくださいってば!」
 「え、ああ…柊弥くん」
 「そうそう!1日経つと先輩いっつもリセットしちゃうんですから~!柊弥ですよ、しゅうや!」

 登校中や学校の廊下、お昼休みの屋上、たまに教室を通りがかった時など、色んな所に彼は現れて「緋咲せーんぱい!」と声をかけてくる。それ自体は嫌ではないし、後輩に慕われるというのは正直嬉しい。

 だけど、大して話も面白くなくて口数も少ない俺といて、何が楽しいのかといつも不思議だ。

 「先輩!見て見て!」
 「…え?」

 突然、柊弥くんが俺の方を向いてべっと舌を出して見せた。その舌は人間の臓器の色をしていない。空みたいに真っ青だった。俺は驚いて思わず数歩後ずさってしまった。

 「!!?えっ!ど、どうした!?も、もしかして病気…!?」

 舌がこんな色になるなんておかしい。まさか、柊弥くんはなにか持病を持っているのか…!?

 「だっ大丈夫か?どこか悪いとか…!」
 「いや先輩、せーんぱい。コレ飴の色がついただけですよ」
 「……へ」
 「俺が舐めてる棒キャンディの色がベロについたんですよ。ほら」

 あ、本当だ。

 よく見たら柊弥くんの手には舐めかけの小さな棒キャンディが握られている。舌とほぼ同じ色の、少し薄まった青色だ。

 「……あ、なんだ。そういうことか、びっくりした」
 「……」
 「ん?柊弥くん、どうし…」
 「あっははは!!!さっきの先輩の焦り方!てかなんで飴舐めてんの気付かないんですかー!もー、あんなリアクション初めてされましたよ!はーっおもしろ…」

 そんなに…大笑いするほど面白かったのか?今の俺。

 「大丈夫?そんな面白かったのか…?」
 「はい…っ!はーっ、先輩って自覚ないだけで、十分面白いんですよ。からかい甲斐あるっていうか…無自覚天然っていうか…」
 「そんなつもりはないけど…」
 「だーから、無自覚なんですって!ほら、はい!これ」

 手を掴まれて突然握らされた何か。手の平を開いてみると、柊弥くんが舐めていたキャンディと同じものが乗っていた。

 「それあげます!美味しいですよ!あっ、じゃあ俺先に行きますね!」
 「えっ、あ…どうもありがとう」

 ぶんぶん大きく手を振りながら走って行ってしまった。本当に嵐のような子だな。いつも彼はそう。気まぐれにやって来て、気まぐれに去っていく。

 さっきの言い分だと…揶揄うと面白いから俺に構ってきてるっぽいな。自分では何が面白いのか分からないが…。

 俺が彼の周りにいないタイプだから、そう思うのだろうか?