クールと噂の緋咲先輩は可愛すぎる



 「…っ!!は、は、は、は、は、は、」
 「?しゅ、柊弥くん…?」
 「は、は、はひ……っ!!!」
 「わーっ!!?しゅ、柊弥くん!!鼻血が!!」

 しばらく呆然としたと思ったら、柊弥くんの鼻から《たらーっ》と効果音がつきそうな、お手本のような鼻血が垂れてきた。

 「わっ!?す、すみませ…」
 「あっ待て待て!上向いちゃダメだ!」

 俺はポケットからティッシュを取り出し、数枚重ねて柊弥くんの鼻に優しくあてがった。そしてゆっくり地面に座らせて下を向かせる。俺も膝をついて目の前にしゃがみ込んだ。

 「これで血が止まるはず…大丈夫か?」

 「は、はい…すびばせん…。カッコ悪ぃ…」

 「いや、そんなことはないけど、なんで急に鼻血…。暑かったか?それとも体調が良くなくて…」

 「ち、違います!!先輩、さっき自分がどんな顔してたか分からないでしょ」

 「…え、どんな顔って?」

 「目がうるうるで…困り眉で…頬が赤くて上目遣いで!!手なんかぎゅって胸の前で握りしめちゃって…可愛すぎですよ殺す気ですか!?」

 「えええ!?い、いやそんなつもりは…ない!!」

 知らなかった。自分がそんな顔してたなんて…。
 急激に恥ずかしさが込み上げてくる。


 「先輩が可愛すぎて…しかも告白OKしてくれるなんて夢みたいで…、ドキドキしてつい体温上がりすぎて鼻血が出たんですよ」

 「ええ!?そ、そんなことが…」

 「引きました?でも、そんくらい先輩のことが好きなんです。さっき元彼さんにハッキリ気持ち伝えた所も…。可愛いくせに、かっこいいこともするんだって…どうしてくれるんですか、」

「…柊弥くん。俺、たぶん柊弥くんと仲良くなってなかったら、また元彼に流されてたかもしれない」

「…え、」

「柊弥くんが、俺の笑顔を受け入れてくれて…真剣に想ってくれたから、勇気…というか、自信が持てたんだよ。柊弥くんのおかげだ」

 柊弥くんは鼻のティッシュを押えながら、赤くなった顔を隠すように俯く。いつも明るくて、年上の俺をリードしてくれる余裕さがあるのに、今の彼は余裕が無さそうだ。それくらい俺を想ってくれている。それは想像以上かもしれない…。

 「…っ俺を選んでくれてありがとうございます…。もっと先輩に大好きになってもらえるように頑張りますから。付き合うからには、もう遠慮はしないですよ」
 「えっ…遠慮って…」
 「だって、もうただの後輩じゃないですから。気持ち伝えすぎてもいいし、堂々と手も繋いでいいってことですよね?」

 そうだ、付き合うということは恋人になるということ。今までとは違う。柊弥くんは、もう懐いてくれる飼い犬みたいな後輩じゃなくて、【彼氏】になるんだから。

 俺は思い切って、両手できゅっと柊弥くんのティッシュを抑える手を握った。お互い同じくらい熱くなり汗ばんでいるのか、握った手が生温かい。

 「…っ!?はっ、先輩!血が着いちゃいますよっ」
 「い、いいんだ!こ、恋人なら手、手繋ぐって言っただろ…!」
 「…っ」
 「柊弥くんのこと、ただの後輩じゃなくて、ちゃ、ちゃんと男として…、恋人になる人として見ている。今好きの量は違っても、これからこうやって増やしていくんだ…!」
「せ、せんぱ…」
「俺も…これからもっと柊弥くんのこと、大好きになりたい…。もっと柊弥くんのこと知りたい」

 その時、くいっと手を握り返されながら引き寄せられる感覚がした。柊弥くんは下を向いたまま、鼻がつかないようにおでこを俺の胸にトンッと預けてきた。

 ____わ、わ、近い。柊弥くんの顔が、ふわふわな髪の毛が、呼吸が近い…。あの時もらったキャンディみたいな甘い香りがする。

 「……~~~ああ、もう!無理!」
 「え!?な、なにが…」
 「緋咲先輩、そんな可愛いことばっか言うと鼻血止まりませんって!!!」
 「…っぶっ、あっははは!!!」
 「!!えっ…」
 「はははっ、な、なんだそれ…、あっははは!」

 柊弥くんの限界そうな叫びを聞いて、思わず吹き出してしまった。堰き止めていた何かが溢れるように、俺は声を出して笑った。“変な顔かも”なんて心配せずに、口を開けてこんなに思い切り笑えるようになるなんて。


 「…はぁ。やっぱり俺…緋咲先輩の笑顔大好きです」
 「ふふっ…、ありがとう柊弥くん。俺、口数多くないし大して面白いことも言えないけど、大丈夫か?」
 「全然大丈夫っす。俺がうるさいんで」
 「…笑うとこんな顔だけど、大丈夫か?」
 「はいっ!!!めっちゃ好きです!」


 ____大事にしたい、ありのままの自分も。柊弥くんのことも…。


 「じゃあ、先輩…これから、俺にたくさん甘やかされる覚悟…できましたね?」

 「ああ……ん?へ??」


 甘やかされる…とは???


 【END】