クールと噂の緋咲先輩は可愛すぎる



 ____そうか。俺はもしかして…もう囚われなくていいのかもしれない。

 ____俺の中で、柊弥くんはこんなに心強い存在になってたのか。

 『緋咲?聞いてるか…「ごめん、薫くん」

 「…先輩?」

 昨日よりも更に。ハッキリと電話の向こうの彼に言葉を刺す。

 「俺、ずっと薫くんの理想に合わせて無理してた」
 『え…?』
 「変な顔で笑わない方がいいって言われて、薫くんの理想であるクールでミステリアスな男でいようとした。その頃から今までずっと…変な顔になるから笑わないでおこうって、思ってしまった。ずっと人前で上手く笑えなかった」
 『…それは、』
 「嫌われるのが怖くて、言いなりになって、意見も思ってることも全然言えなかった。でも…今なら言える」

 電話を耳に当てながら、柊弥くんの方を向く。不安そうに、だけど見守るように俺を見据えている。

 「薫くんとヨリを戻すことはできない。ごめん」
 『なあ、緋咲。もう一度それは会って話…』
 「俺、今一緒にいたい人がいるんだ」
 『…え、』

 俺は柊弥くんにも聞こえる声で、顔をじっと見つめながらそう言い切った。今自分がどんな顔をしているか分からない。分からないくらい自然に、口角が上がっている気がする。

 電話越しからは、戸惑うような息遣いが聞こえてきた。

 「…っ!」

 「その人のおかげで、久しぶりにこんなに笑うことができた。こんな俺でも大丈夫かもしれないって思えた。その人の気持ちに応えたいんだ」
 『…緋咲、おれ、』
 「だから、ごめんなさい。もう薫くんとは会うこともない。あの頃、不慣れな俺と付き合ってくれてありがとう」

 迷いのない声色でそう伝えた後、初めて聞こえてきた薫くんの動揺した声。数秒ほど後に「分かった…悪かった」と小さくか細い声が聞こえて、ツーツーと無機質な音が鳴った。

 その番号も着信拒否設定にして、俺は柊弥くんの目の前へと近付いていく。

 「…あ、わ、悪かった。話の途中に」
 「いえ…!大丈夫ですけど…。今のは、もしかして元彼さん…ですか?」
 「ああ…。この前話した、高一の時付き合ってた人だ。昨日電話がかかってきてヨリを戻そうと言われて断ったけど、またかかってきた。でも今もハッキリ断ったよ」

 ドクドクと心臓が跳ねる。だけど、やっぱりこれだ。柊弥くんといる時のドクドクは、全身の体温が上がるような感覚がする。

 この鼓動さえ心地よくて顔が綻びそうになってしまう。

 「…さっき彼に話したのは、柊弥くんのことだ。俺は、君の気持ちに応えたい」
 「…っ先輩、」
 「その…っ、すごく好きとまではまだ言えないけど…。でも、柊弥くんともっと一緒にいたいって…信じたいって思うんだ。だ、だ、だから…」
 「…っはい」


 「お、俺と……付き合ってくれないか?」