今日ほど時間が経つスピードを遅いと思ったことはない。授業もまるで身に入らず集中できなかった。クラスの中で俺一人がそわそわしてるみたいで、落ち着かない。
“大丈夫大丈夫、ちゃんと言える。柊弥くんとならきっと…”
そして授業が終わり、昼のチャイムが鳴り響く。俺は挨拶を終えるとほぼ同時に教室を走り出た。
『橋本くん、今めっちゃ急いで出て行ったよね』
『うん、あんな慌てることあるんだ。びっくりした』
急ぎ足で階段を駆け登り、約束していた屋上の扉の前まで辿り着いた。鈍い開閉音を出しながら扉をゆっくりと開ける。すると、そこには俺と同じように息を整えるように呼吸を繰り返す柊弥くんの姿があった。
「…っあ、あれ、早いね、」
「ははは、チャイム鳴るのと同時に教室飛び出してきました」
「…俺と同じだ」
「先輩も?なんだ、なんか嬉しいな」
走ったせいで荒くなった呼吸を落ち着かせ、柊弥くんの方へと近付いた。いても経ってもいられなくてここまで走ってきたのに、いざこの状況になったら緊張して肩が縮こまってしまう。
「先輩…、ゆっくりでいいですよ」
「あ、ありがとう。大丈夫だ」
すぅ…っと息を吸いこみ、ゆっくり吐き出す。
「あ、あの…《prrrrrrr》
「「!?」」
やっと言葉を発したその時。またもやズボンのポケットに入れていたスマホが鳴り響き出した。しかも、それはアプリではなく携帯自体に電話がかかってきた音だ。
「わっ、わ、悪い!携帯が…」
「あ!いいですよ、全然出てください!」
スマホの画面を見てみると、そこには名前ではなく電話番号が表示されていた。でも、俺は思わず息を飲む。何となくこの番号に見覚えがあったからだ。
ごくりと唾を飲み、通話ボタンをタップした。
「…もしもし」
『あ、緋咲?また電話してごめん。俺の番号着拒したよね?2台持ちだからもう1つの方でかけたんだ』
「薫くん…」
電話をかけてきた主はやはり薫くんだった。そういえば、付き合ってた頃に数回だけ2台目の方で電話したことがあった。だからこの番号に何となく見覚えがあったのか。
チラッと柊弥くんの方を見ると、俺の表情が曇ったことを悟ってくれたのか、心配そうにこちらの様子を伺っていた。
こんな大事な時に…。なんで柊弥くんといる時に電話が来るんだ?そもそも、ヨリを戻そうという話なら昨日ちゃんと断ったはず…。
『はは、びっくりしたか?でもさ、緋咲も悪いよ。一方的に断って着拒してきて、そんな奴じゃなかっただろ?どうしちゃったんだよ』
薫くんは悪びれもせず、薄ら笑みを浮かべていそうな声色で畳み掛けてくる。
昨日のような緊張感はまるでなくて、俺の口からは自然とため息が溢れ出た。


