そして夜。風呂から上がって部屋に戻ると、また着信を知らせる音楽がスマホから鳴り出した。画面には、やはり【薫くん】と表示されている。
告白のことだけで頭がいっぱいに出来ないのは困る。たとえこのまま無視しても、この先絶対心のどこかがつっかえる原因になるだろう。俺は深呼吸をしてから、通話ボタンをタップした。
「…も、もしもし」
《もしもし?久しぶり、緋咲。元気だった?》
「まあ…うん。用件は?」
電話越しに聞こえたのは、懐かしさと忌避感を感じさせる薫くんの声だった。トーンも落ち着いてて、緊張した感じはない。緊張して上擦ってしまった俺の声とは正反対。声だけで、あのサラサラした黒髪とメガネを上げる仕草が目の裏に映るようだった。
『なんだよ、久しぶりなのに…つれないな。まあ、そこも緋咲っぽくていいな、懐かしい』
____俺っぽい…か。
『着拒されてなくてよかった。LI〇Eはブロックされてたみたいだからさ』
「あ、ああ…」
『まあ、そりゃそうだよな。元彼の連絡先なんて残しておきたくないか。でも、俺はずっと緋咲のこと忘れられなかったんだよ』
____忘れられなかったって…。振ってきた時、「思ってたのと違った」なんて冷たく言い放って、俺がもう一度話したいって言っても一方的に突っぱねたくせに…。どの口が言うんだろう。
『それでさ…、連絡したのはやり直したいと思ったからなんだ』
「…何を?」
『俺達のことをだよ。ヨリ戻そう、緋咲』
____ヨリを戻す…?もう一度付き合おうって言っているのか?
『別れてから色々あったんだけどさ…やっぱり、女子でも男子でも緋咲以上に綺麗で俺のタイプな子いなかった。気付いたよ、緋咲が1番だって。それに緋咲も俺にゾッコンだっただろ?』
別れ際のことを思い返すと、頭がクラクラする。忘れかけていた、薫くんの心底面倒くさそうな表情が浮かんでくる。「飽きたからもういい」そう言いたげな態度が丸見えだった。なのに、今更そんなこと言ってくるなんてどうかしてる。
「ヨリを戻す気はない。もう連絡しないでくれ」
『は?え、なん……』
薫くんが言い終わるより前に通話を切った。ドクドクと心臓が音を立てている。柊弥くんといた時とは違う音の立て方、指先がひんやりするような感覚。
薫くんに自分の意思をこんなにハッキリ伝えたのは初めてかもしれない。付き合ってた頃は、彼の理想と違うって言われるのが嫌だったから、求められている言葉や態度を感じ取って作り上げていた。
でも、今はそれが嫌だって思える。もしこれが柊弥くんと親しくなる前だったら揺らいでいたかもしれないけど、もう違うんだ。今までの俺じゃない。
____こんな風に強くなりたいって思えたのは、きっと…。
“俺、緋咲先輩のことが好きです”
着信履歴から薫くんの電話番号を着信拒否設定にして、俺はベッドに倒れ込んだ。


