雨の日の告白から、数日が経った。
俺の頭の中は完全にパンクしていた。
(『好きだから隣にいる』って……あの城ヶ崎先輩が……俺を……!?)
夢でも見ているんじゃないかと何度も自分の頬を抓った。
だけど、陸先輩の態度はあの日を境にさらに過激……もとい、甘くなっていた。
「凛、あーん」
「や、やめろよ! 教室で何させてんだよ!」
「いいじゃん、俺特製のエビチリ弁当。一口やるって」
「周りの目を見ろ! 周りの目を〜〜っ!」
昼休みの教室。陸先輩は当然のように俺の席の前にドカッと座り、俺に玉子焼きやエビチリを食べさせようとしてくる。
クラスの女子たちが「きゃーっ! 城ヶ崎先輩と猫宮くん、やっぱり……!」「尊い……!」と遠巻きに悶絶しているのが見えて、俺の顔は連日熟したトマト状態だった。
(断りたい……! 恥ずかしすぎて死にそう……! でも……)
あーんされたエビチリを「んぐっ」と口に含むと、陸先輩が「可愛い」と呟いて頭を撫でてくる。
本当は、陸先輩にこうやって構われるのが、跳び上がるほど嬉しいのだ。
素直になれない自分がもどかしくて、俺はいつも通り眉間にシワを寄せてツンツンしてしまうのだが。
秋。学校では最大イベントである『文化祭』が開催されていた。
一年生の俺のクラスは『執事カフェ』を出店することになり、俺も無理やり執事服を着せられるハメになった。
「うぅ……なんで俺までこんな服……」
黒のタキシードに身を包み、手袋をはめる。
目つきが悪いせいか、意外にも「クールでミステリアスな執事」としてクラスの女子からは大好評だった。
「猫宮くん! 3番テーブルのお客様から写真撮影頼まれたよ!」
「えっ、写真!? 俺、そういうの無理……っ」
人前に出るのが苦手な俺は、案内係を任されただけでキャパオーバーを起こしていた。
そこへ、他校の女子高校生二人組が「あの〜! 一緒に写真撮ってもらえませんか?」と笑顔で近づいてきた。
(うわあああどうしよう!! 断ったら『感じ悪い』って思われる……でも、知らない人と写真なんて緊張して顔がひきつる……っ!)
「あ、えっと……俺、そういうのはちょっと——」
「ダメに決まってんだろ」
背後から、冷ややかな、けれど強烈な圧を孕んだ声が響いた。
振り返ると、そこには私服姿の陸先輩が立っていた。
いつもニコニコしている彼の顔から笑みが消え、冷たい瞳で他校の女子たちを見下ろしている。
「あ、あの……城ヶ崎先輩……?」
「こいつ、俺の予約済みだから。勝手に撮らないでくれる?」
陸先輩はそれだけ言い放つと、あぜんとする女子たちを置いて、俺の手首を強引に掴んで教室の外へと引っ張っていった。
「わっ! ちょ、先輩!? どこ行くの……っ!」
連れてこられたのは、体育館の裏手にある、普段は誰も来ない資材置き場だった。
壁に背中を押し付けられ、逃げ場を塞がれるように陸先輩の両腕が俺の左右の壁に突かれた。
いわゆる『壁ドン』の格好だ。
「せ、先輩……? 怒ってる……?」
陸先輩は返事をせず、じっと俺を見つめていた。
その瞳には、今まで隠されていた黒く渦巻く『独占欲』が剥き出しになっていた。
「……似合いすぎなんだよ」
「え……?」
「その格好。似合いすぎててイライラする。他の奴らに見せたくない」
陸先輩の手が伸びてきて、俺のタキシードの襟元をギュッと掴んだ。
「俺さ、ずっと我慢してんだよ。お前が不器用で、照れ屋で、なかなか素直になれないの分かってるから、焦らせないように待とうと思ってた」
「……っ」
「でも、あんな服着て、他の奴らに囲まれて、困った顔して……。俺以外の男や女に見せるなよ。お前のかわいいところも、弱点も、全部俺だけのものにしたい」
陸先輩の声が低く震えている。
彼の大きな体が覆いかぶさってきて、息が詰まりそうになる。
(先輩……本気なんだ。俺のこと……本気で独占したいと思ってくれてるんだ……)
胸の奥で、ずっと抑え込んでいた感情の堤防が決壊した。
恐怖なんてなかった。あったのは、溢れんばかりの愛おしさと、自分も陸先輩のものになりたいという強い願いだった。
俺は、手袋をはめた自分の手で、陸先輩のジャケットの裾をきゅっと掴んだ。
「……逃げないよ」
「……え?」
陸先輩が目を見開く。
俺は顔を真っ赤にしながら、必死に彼の目を見返した。
「逃げないから……。他の奴のところなんて行かない。俺……陸先輩のこと、好きだから……っ」
初めて呼んだ、下の名前。
初めて口にした、素直な気持ち。
陸先輩は一瞬、息を止めて固まった。
そして次の瞬間、彼の顔が崩れ、見たこともないほど愛おしそうな笑みが浮かんだ。
「……お前、ほんと……ずるい……っ」
次の瞬間、俺の視界は陸先輩の影で覆われた。
重ねられた唇。
雨の日の静かなキスとは違う、情熱的で、甘く、身体の芯まで溶かされていくような深いキスだった。
「ん……っ……ふ……あ……」
何度も角度を変えて重なる唇に、俺は陸先輩の首に必死にしがみついた。
頭の中が真っ白になり、足の力が抜けていく。
息が続いて離れると、陸先輩は俺の額に自分の額をこつんと当て、嬉しそうに目を細めた。
「もう放さないからな、凛」
「……うん。放さないで……」
ツンツンした仮面は、もう完全に剥がれ落ちていた。
俺は陸先輩の胸に顔を埋め、彼の温もりを全身で受け止めた。
俺の頭の中は完全にパンクしていた。
(『好きだから隣にいる』って……あの城ヶ崎先輩が……俺を……!?)
夢でも見ているんじゃないかと何度も自分の頬を抓った。
だけど、陸先輩の態度はあの日を境にさらに過激……もとい、甘くなっていた。
「凛、あーん」
「や、やめろよ! 教室で何させてんだよ!」
「いいじゃん、俺特製のエビチリ弁当。一口やるって」
「周りの目を見ろ! 周りの目を〜〜っ!」
昼休みの教室。陸先輩は当然のように俺の席の前にドカッと座り、俺に玉子焼きやエビチリを食べさせようとしてくる。
クラスの女子たちが「きゃーっ! 城ヶ崎先輩と猫宮くん、やっぱり……!」「尊い……!」と遠巻きに悶絶しているのが見えて、俺の顔は連日熟したトマト状態だった。
(断りたい……! 恥ずかしすぎて死にそう……! でも……)
あーんされたエビチリを「んぐっ」と口に含むと、陸先輩が「可愛い」と呟いて頭を撫でてくる。
本当は、陸先輩にこうやって構われるのが、跳び上がるほど嬉しいのだ。
素直になれない自分がもどかしくて、俺はいつも通り眉間にシワを寄せてツンツンしてしまうのだが。
秋。学校では最大イベントである『文化祭』が開催されていた。
一年生の俺のクラスは『執事カフェ』を出店することになり、俺も無理やり執事服を着せられるハメになった。
「うぅ……なんで俺までこんな服……」
黒のタキシードに身を包み、手袋をはめる。
目つきが悪いせいか、意外にも「クールでミステリアスな執事」としてクラスの女子からは大好評だった。
「猫宮くん! 3番テーブルのお客様から写真撮影頼まれたよ!」
「えっ、写真!? 俺、そういうの無理……っ」
人前に出るのが苦手な俺は、案内係を任されただけでキャパオーバーを起こしていた。
そこへ、他校の女子高校生二人組が「あの〜! 一緒に写真撮ってもらえませんか?」と笑顔で近づいてきた。
(うわあああどうしよう!! 断ったら『感じ悪い』って思われる……でも、知らない人と写真なんて緊張して顔がひきつる……っ!)
「あ、えっと……俺、そういうのはちょっと——」
「ダメに決まってんだろ」
背後から、冷ややかな、けれど強烈な圧を孕んだ声が響いた。
振り返ると、そこには私服姿の陸先輩が立っていた。
いつもニコニコしている彼の顔から笑みが消え、冷たい瞳で他校の女子たちを見下ろしている。
「あ、あの……城ヶ崎先輩……?」
「こいつ、俺の予約済みだから。勝手に撮らないでくれる?」
陸先輩はそれだけ言い放つと、あぜんとする女子たちを置いて、俺の手首を強引に掴んで教室の外へと引っ張っていった。
「わっ! ちょ、先輩!? どこ行くの……っ!」
連れてこられたのは、体育館の裏手にある、普段は誰も来ない資材置き場だった。
壁に背中を押し付けられ、逃げ場を塞がれるように陸先輩の両腕が俺の左右の壁に突かれた。
いわゆる『壁ドン』の格好だ。
「せ、先輩……? 怒ってる……?」
陸先輩は返事をせず、じっと俺を見つめていた。
その瞳には、今まで隠されていた黒く渦巻く『独占欲』が剥き出しになっていた。
「……似合いすぎなんだよ」
「え……?」
「その格好。似合いすぎててイライラする。他の奴らに見せたくない」
陸先輩の手が伸びてきて、俺のタキシードの襟元をギュッと掴んだ。
「俺さ、ずっと我慢してんだよ。お前が不器用で、照れ屋で、なかなか素直になれないの分かってるから、焦らせないように待とうと思ってた」
「……っ」
「でも、あんな服着て、他の奴らに囲まれて、困った顔して……。俺以外の男や女に見せるなよ。お前のかわいいところも、弱点も、全部俺だけのものにしたい」
陸先輩の声が低く震えている。
彼の大きな体が覆いかぶさってきて、息が詰まりそうになる。
(先輩……本気なんだ。俺のこと……本気で独占したいと思ってくれてるんだ……)
胸の奥で、ずっと抑え込んでいた感情の堤防が決壊した。
恐怖なんてなかった。あったのは、溢れんばかりの愛おしさと、自分も陸先輩のものになりたいという強い願いだった。
俺は、手袋をはめた自分の手で、陸先輩のジャケットの裾をきゅっと掴んだ。
「……逃げないよ」
「……え?」
陸先輩が目を見開く。
俺は顔を真っ赤にしながら、必死に彼の目を見返した。
「逃げないから……。他の奴のところなんて行かない。俺……陸先輩のこと、好きだから……っ」
初めて呼んだ、下の名前。
初めて口にした、素直な気持ち。
陸先輩は一瞬、息を止めて固まった。
そして次の瞬間、彼の顔が崩れ、見たこともないほど愛おしそうな笑みが浮かんだ。
「……お前、ほんと……ずるい……っ」
次の瞬間、俺の視界は陸先輩の影で覆われた。
重ねられた唇。
雨の日の静かなキスとは違う、情熱的で、甘く、身体の芯まで溶かされていくような深いキスだった。
「ん……っ……ふ……あ……」
何度も角度を変えて重なる唇に、俺は陸先輩の首に必死にしがみついた。
頭の中が真っ白になり、足の力が抜けていく。
息が続いて離れると、陸先輩は俺の額に自分の額をこつんと当て、嬉しそうに目を細めた。
「もう放さないからな、凛」
「……うん。放さないで……」
ツンツンした仮面は、もう完全に剥がれ落ちていた。
俺は陸先輩の胸に顔を埋め、彼の温もりを全身で受け止めた。


