それからの日々は、怒涛のようだった。
陸先輩の過保護ぶりは、日に日にエスカレートしていった。
朝、登校すると下駄箱の前で「おはよ、凛」と待っている。
昼休みになれば「凛、飯食うぞ」と俺の教室まで迎えに来る。(クラスの女子たちが『なんで城ヶ崎先輩が猫宮くんと!?』と悲鳴を上げていた)
放課後、部活(バスケ部)の練習前には「ちゃんとまっすぐ帰れよ? 変な奴についていくなよ?」と、まるで子供を心配する親のような連絡を入れてくる。
(俺、一応男だし、高校生なんだけど……っ!)
だけど、陸先輩が周りにいてくれるおかげで、クラスの男子からも「猫宮って、城ヶ崎先輩と仲いいんだな」「意外と話すと普通だよな」と声をかけられることが増えた。
俺の「怖い目つき」を、陸先輩が「こいつ照れてるだけだから」とフォローしてくれていたのだ。
感謝してもしきれない。だけど、胸の奥で育っていく「甘い苦しさ」に、俺は一人で頭を抱えていた。
(先輩は……ただの『手のかかる後輩』として俺の世話を焼いてくれてるだけなんだ。俺が先輩のこと、こんな風に特別な目で見てるなんて知ったら……絶対引かれる……)
6月の終わり。放課後、突然の夕立が学校を襲った。
雷が鳴り響き、滝のような雨がグラウンドを濡らしている。
俺は昇降口で、ポツンと立ち尽くしていた。
(うわぁ……傘、忘れた……。天気予報見落としてた……)
周りの生徒たちが「相合い傘で帰ろ〜!」「走って帰ろうぜ!」と賑やかに帰っていく中、俺は一人、雨宿りをするしかなかった。
「はぁ……ついてないな……」
ため息をついた、その時だった。
『凛ー? 今どこ? 昇降口にいる?』
ポケットの中でスマホが震え、陸先輩からの通話が繋がった。
「あ、先輩……はい、昇降口ですけど……」
『動くなよ! 今すぐ行くから!』
「え? でも先輩、部活は——」
プツッと電話が切れた。
数分後、バスケ部のジャージ姿の陸先輩が、息を荒らして階段を駆け下りてきた。手に大きなビニール傘を一本抱えている。
「ハァ……ハァ……よかった、まだいた」
「先輩!? 練習中じゃ……」
「外がすげえ雨になってただろ。お前、絶対傘忘れて途方に暮れてると思って」
(図星すぎる……!)
俺が言い返せずに固まっていると、陸先輩は俺の腕を掴み、自分の開いた傘の下へと引き寄せた。
「行くぞ。駅まで送る」
「えっ……でも、傘一本しかないじゃん! 先輩が濡れるよ!」
「いいから入れって。お前を濡らすわけにいかないだろ」
狭い傘の下。
陸先輩は自分の右肩が雨でびしょ濡れになるのも構わず、傘を完全に俺の方へと傾けていた。
「っ……! 先輩、傘傾きすぎ! 肩濡れてるって!」
「気にすんな。お前が風邪ひくより100倍マシ」
「マシじゃないよ! 先輩が風邪ひいたら困るだろ!」
俺は焦って、陸先輩の腰のあたりのジャージをぎゅっと掴み、彼を自分の方へ引き寄せようとした。
その瞬間——。
陸先輩の足が止まった。
「……凛」
「な、何だよ……早く歩かないと——」
「お前……今、俺の服掴んだ?」
ハッとして手元を見る。
俺の指先が、しっかりと陸先輩のジャージの裾を握りしめていた。
(うわああああっ!! 何やってんだ俺!! 馴々しく触って……っ!!)
「ご、ごめんなさい! 咄嗟に……! すぐ離すから——」
パニックになって手を引こうとした瞬間。
バシッ、と陸先輩の大きな手が俺の手首を掴んだ。
「離すな」
「え……?」
「離すなよ。……お前が自分から俺に触ってきたの、初めてだから」
陸先輩の声が、いつもの軽やかなトーンとは違っていた。
低く、どこか熱を帯びた声。
雨の音に包まれた静寂の中で、陸先輩の整った顔がじわじわと近づいてくる。
彼の黒い瞳が、俺の顔を食い入るように見つめていた。
「ねえ、凛」
「な……なに……?」
「俺、お前のこと『可愛い後輩』として世話焼いてると思ってたら、大間違いだからな」
「っ……!?」
「お前が他の男子と話してるとイラつくし、お前が困ってると真っ先に駆けつけたくなる。……これ、どういう意味か分かるか?」
心臓が、耳の奥でうるさいくらいにドクドクと脈打つ。
雨の匂いと、陸先輩の熱気。
逃げ出したいのに、陸先輩に掴まれた手首と、彼から発せられる圧倒的な存在感に縛られて、指一本動かせない。
「俺……分かんない……っ」
「分かれよ。……俺は、お前が好きだから隣にいるんだ」
雨音を突き抜けて、陸先輩のまっすぐな言葉が俺の胸に突き刺さった。
陸先輩の過保護ぶりは、日に日にエスカレートしていった。
朝、登校すると下駄箱の前で「おはよ、凛」と待っている。
昼休みになれば「凛、飯食うぞ」と俺の教室まで迎えに来る。(クラスの女子たちが『なんで城ヶ崎先輩が猫宮くんと!?』と悲鳴を上げていた)
放課後、部活(バスケ部)の練習前には「ちゃんとまっすぐ帰れよ? 変な奴についていくなよ?」と、まるで子供を心配する親のような連絡を入れてくる。
(俺、一応男だし、高校生なんだけど……っ!)
だけど、陸先輩が周りにいてくれるおかげで、クラスの男子からも「猫宮って、城ヶ崎先輩と仲いいんだな」「意外と話すと普通だよな」と声をかけられることが増えた。
俺の「怖い目つき」を、陸先輩が「こいつ照れてるだけだから」とフォローしてくれていたのだ。
感謝してもしきれない。だけど、胸の奥で育っていく「甘い苦しさ」に、俺は一人で頭を抱えていた。
(先輩は……ただの『手のかかる後輩』として俺の世話を焼いてくれてるだけなんだ。俺が先輩のこと、こんな風に特別な目で見てるなんて知ったら……絶対引かれる……)
6月の終わり。放課後、突然の夕立が学校を襲った。
雷が鳴り響き、滝のような雨がグラウンドを濡らしている。
俺は昇降口で、ポツンと立ち尽くしていた。
(うわぁ……傘、忘れた……。天気予報見落としてた……)
周りの生徒たちが「相合い傘で帰ろ〜!」「走って帰ろうぜ!」と賑やかに帰っていく中、俺は一人、雨宿りをするしかなかった。
「はぁ……ついてないな……」
ため息をついた、その時だった。
『凛ー? 今どこ? 昇降口にいる?』
ポケットの中でスマホが震え、陸先輩からの通話が繋がった。
「あ、先輩……はい、昇降口ですけど……」
『動くなよ! 今すぐ行くから!』
「え? でも先輩、部活は——」
プツッと電話が切れた。
数分後、バスケ部のジャージ姿の陸先輩が、息を荒らして階段を駆け下りてきた。手に大きなビニール傘を一本抱えている。
「ハァ……ハァ……よかった、まだいた」
「先輩!? 練習中じゃ……」
「外がすげえ雨になってただろ。お前、絶対傘忘れて途方に暮れてると思って」
(図星すぎる……!)
俺が言い返せずに固まっていると、陸先輩は俺の腕を掴み、自分の開いた傘の下へと引き寄せた。
「行くぞ。駅まで送る」
「えっ……でも、傘一本しかないじゃん! 先輩が濡れるよ!」
「いいから入れって。お前を濡らすわけにいかないだろ」
狭い傘の下。
陸先輩は自分の右肩が雨でびしょ濡れになるのも構わず、傘を完全に俺の方へと傾けていた。
「っ……! 先輩、傘傾きすぎ! 肩濡れてるって!」
「気にすんな。お前が風邪ひくより100倍マシ」
「マシじゃないよ! 先輩が風邪ひいたら困るだろ!」
俺は焦って、陸先輩の腰のあたりのジャージをぎゅっと掴み、彼を自分の方へ引き寄せようとした。
その瞬間——。
陸先輩の足が止まった。
「……凛」
「な、何だよ……早く歩かないと——」
「お前……今、俺の服掴んだ?」
ハッとして手元を見る。
俺の指先が、しっかりと陸先輩のジャージの裾を握りしめていた。
(うわああああっ!! 何やってんだ俺!! 馴々しく触って……っ!!)
「ご、ごめんなさい! 咄嗟に……! すぐ離すから——」
パニックになって手を引こうとした瞬間。
バシッ、と陸先輩の大きな手が俺の手首を掴んだ。
「離すな」
「え……?」
「離すなよ。……お前が自分から俺に触ってきたの、初めてだから」
陸先輩の声が、いつもの軽やかなトーンとは違っていた。
低く、どこか熱を帯びた声。
雨の音に包まれた静寂の中で、陸先輩の整った顔がじわじわと近づいてくる。
彼の黒い瞳が、俺の顔を食い入るように見つめていた。
「ねえ、凛」
「な……なに……?」
「俺、お前のこと『可愛い後輩』として世話焼いてると思ってたら、大間違いだからな」
「っ……!?」
「お前が他の男子と話してるとイラつくし、お前が困ってると真っ先に駆けつけたくなる。……これ、どういう意味か分かるか?」
心臓が、耳の奥でうるさいくらいにドクドクと脈打つ。
雨の匂いと、陸先輩の熱気。
逃げ出したいのに、陸先輩に掴まれた手首と、彼から発せられる圧倒的な存在感に縛られて、指一本動かせない。
「俺……分かんない……っ」
「分かれよ。……俺は、お前が好きだから隣にいるんだ」
雨音を突き抜けて、陸先輩のまっすぐな言葉が俺の胸に突き刺さった。


