目つきの悪いツンデレ猫を拾ったら、二度と放してくれませんでした

「おい、猫宮。またそんな場所で一人で飯食ってんのか?」

(ひやぁぁぁっ!? 出た……っ!!)

渡り廊下の奥にある、誰も来ない物陰の階段。
手に持っていた購買の焼きそばパンをギュッと握りしめ、俺は咄嗟に身構えた。

上から降ってきたのは、低く通る爽やかな声。
ゆっくりと視線を上げると、そこには眩しすぎるほどの笑みを浮かべた二年生の城ヶ崎陸先輩が立っていた。

長身で、整った顔立ち。バスケ部のエースで、女子からの人気もダントツ。
校内の誰もが知る太陽みたいな有名人が、なぜか最近、一年の俺にしつこく絡んでくるのだ。

(落ち着け俺! ちゃんと普通に会話するんだ……! 変に威圧感を与えないように、柔らかく断るんだ……!)

「……べ、別にいいだろ。一人の方が落ち着くんだから。先輩には関係ないだろ……っ」

(あーっ!! またやっちゃった!! なんで俺の口はこんなに生意気でトゲがあるんだよーっ!!)

心の中で頭を抱えてのたうち回る。
俺、猫宮凛は、生まれつき目つきが少し鋭い。それに加えて極度の人見知りで緊張しやすいため、人と話そうとすると全身がガチガチに強張り、顔が死ぬほど怖くなってしまうのだ。

中学時代もそのせいで「生意気なやつ」「近寄りがたい」と誤解され、友達がうまく作れなかった。
高校こそは穏やかに過ごそうと思っていたのに、緊張のあまり言葉を選べず、結局「怖い一年生」として浮いてしまっていた。

(絶対怒った……。絶対『なんだその口叩きは』って呆れられた……!)

俺は怒られるのを覚悟して、ギュッと目を瞑った。

だが——。

「くはっ、やっぱりお前、最高に可愛いな!」

「え……?」

頭の上から降ってきたのは怒声ではなく、心底楽しそうな爆笑だった。

目を開けると、陸先輩は大きな手を俺の頭にポンと乗せ、わしゃわしゃと撫でまわしてきた。

「な、何すんだよ! 髪が崩れるだろ!」

「いいじゃん。お前、そうやって目つき鋭くして威嚇してくるけど、耳真っ赤だし、指先震えてんだもん。バレバレなんだよ」

「っ……! バレて……っ!?」

俺は思わず自分の両耳を手で覆った。
熱い。自分でも分かるくらい、耳タブが火照っていた。

(嘘だろ……!? 俺の『威嚇』がまったく効いてないどころか、緊張してるの見抜かれてる……!?)

「ほら、これあげる。お前、甘いの好きだろ?」

陸先輩が制服のポケットから取り出したのは、小さな紙パックの『いちごミルク』だった。ストローまでご丁寧に袋から出して、俺の手に握らせてくる。

「あ……これ、購買で即売り切れるやつ……」

「昼休みに一番で並んで買ってきた。お前、いつも購買の混雑に押されてメロンパンしか買えてなさそうだったからさ」

(見られてた……!? 購買のパン争奪戦でオロオロして弾き飛ばされてるダサい俺を見られてたのか……!?)

恥ずかしさで爆発しそうになる。だけど、目の前に出されたいちごミルクは、俺が大好きな飲み物だった。

「……べ、別に頼んでないし。……でも、捨てるのはもったいないから、貰ってやるよ」

「おう、遠慮なく飲め」

ストローを咥え、ちゅーっと吸い込む。
まろやかな甘さと苺の香りが口いっぱいに広がって、緊張でガチガチだった肩の力がフッと抜けた。

「……うまい」

「だろ?」

陸先輩は嬉しそうに目を細めると、俺の隣の狭い階段にドカッと腰を下ろした。
長い足を持て余すように組み、肩が触れ合うほどの距離で俺を覗き込んでくる。

(近い……っ! 先輩の体温が伝わってくるし、爽やかな汗と石鹸の匂いがする……っ!)

「あの、先輩……自分の教室に戻らないのかよ」

「ここで凛と一緒に食べる。俺、お前と話すの楽しいし」

「っ……!」

さらっと名前で呼ばれ、心臓が大きく跳ね上がった。
陸先輩は自分の焼きそばパン(※俺の分とは別に自分が食べる用の大きなパック)を開けると、実に美味しそうに口へ運んでいく。

校内一のモテ男子が、なんでこんな渡り廊下の陰で、ぼっちの一年生と並んでパンを食べているのか。
意味が分からなくて混乱するけれど、陸先輩の隣にいると、不思議と「一人でいる寂しさ」が消えていくような気がした。

(ダメだ……優しくされたら、勘違いしちゃうだろ……)

俺は下を向き、いちごミルクのストローをキュッと噛みしめた。