氷の溶けたレモンサワーのグラスを両手で握りしめながら、俺——瀬名葵は、顔の筋肉がひくひくと痙攣しそうになるのを必死で耐えていた。
「へえ、瀬名って高校時代サッカー部だったんだ? どおりでノリが良いと思った〜!」
「あ、ハハ、まあね! 全然大したことないんだけどさ!」
居酒屋の座敷席、ワイワイと賑やかな声が飛び交うサークルの新歓飲み会。
俺は「イケてる大学生」の表情を崩さないよう、相手の言葉に完璧なタイミングで頷き、大げさに笑ってみせる。
(うそです……本当は補欠だったし、部活のあとの打ち上げすら緊張して胃を痛めてたインドア派です……!)
心の中で血の涙を流しながら、俺は必死に「擬態」を続けていた。
高校までの影が薄い自分とおさらばしたくて、大学入学を機に髪を少し明るく染め、勇気を出して学内でも一軍と名高いイベントサークル『アルカディア』に入った。
だけど、現実は甘くない。
根が筋金入りの人見知りでコミュ障な俺にとって、この陽キャたちのテンションに合わせるのは、命がけの登山をしているようなものだった。
「瀬名ー! 次何飲む? 生頼んじゃう?」
「いいね! 俺も生いっちゃおうかな!」
元気よく答えるものの、喉の奥は緊張でカラカラだ。アルコールどころか、本当は温かい緑茶でも飲んで布団に潜り込みたい。
すでに限界メーターは真っ赤に点滅していた。
(あと一時間……いや、三十万歩譲ってあと三十分耐えれば、一次会が終わる……頑張れ俺、ここでボロを出したら『ノリの悪い奴』認定されて浮いてしまう……!)
ぎこちなく笑いながら、ふと視線を感じて斜め向かいの席に目をやった。
そこに座っていたのは、高城柊真だった。
黒髪を無造作にセットし、シンプルなシャツを着こなした彼は、この騒がしい空間の中でも一人だけ静かな存在感を放っている。一見冷たそうに見えるが、整いすぎた顔立ちのせいで女子からの注目度はサークル内でダントツだ。
高城は、グラスを片手にじっとこちらを見つめていた。
その鋭くもどこか冷ややかな瞳と目が合い、俺の心臓が跳ね上がる。
(やばい……何か変な発言したかな!? もしかして『こいつ無理して陽キャぶってて痛いな』とか思われてる……!?)
焦った俺は、ごまかすように「高城も飲んでる〜?」と気さくを装って手を振ってみた。
高城は一瞬だけ呆れたように目を細めると、フッと小さく息を吐き、視線を外した。
(うわあぁぁ! 絶対に嫌われた! どうしよう……!)
胃が絞られるような痛みに襲われ、俺はついに耐えきれなくなった。
「あ、ごめん! ちょっとお手洗い行ってくるね!」
周囲に明るく声をかけ、逃げるように席を立った。
トイレに向かうフリをして俺が向かったのは、居酒屋の奥にある小さな屋外ベランダだった。雑居ビルの中層階にあるそこは、夜風が吹き抜けていて、喧騒が少しだけ遠く聞こえる。
「……はぁぁぁぁぁぁ……」
誰もいないことを確認した瞬間、俺は手すりに体重を預け、本日最大のため息を吐き出した。
張り詰めていた緊張が抜け、肩がガクンと落ちる。両手で自分の顔を覆うと、頬の筋肉が強張ってカチコチになっているのが分かった。
「しんどい……人付き合い、マジでしんどい……」
弱音がポロポロと口から漏れ出す。
頑張って擬態しているつもりだけど、やっぱり自分には向いていないのかもしれない。明日からどうやってサークルに行けばいいんだろう。高城にも不審がられたし、もう詰んだのではないか。
夜空を見上げながら鬱々とした思考に沈んでいた、その時だった。
「……やっぱりここにいた」
「うわあああっ!?」
背後から突然かけられた低い声に、俺は跳び上がるほど驚いて振り返った。
そこに立っていたのは、一番会いたくなかった相手——高城柊真だった。
「へえ、瀬名って高校時代サッカー部だったんだ? どおりでノリが良いと思った〜!」
「あ、ハハ、まあね! 全然大したことないんだけどさ!」
居酒屋の座敷席、ワイワイと賑やかな声が飛び交うサークルの新歓飲み会。
俺は「イケてる大学生」の表情を崩さないよう、相手の言葉に完璧なタイミングで頷き、大げさに笑ってみせる。
(うそです……本当は補欠だったし、部活のあとの打ち上げすら緊張して胃を痛めてたインドア派です……!)
心の中で血の涙を流しながら、俺は必死に「擬態」を続けていた。
高校までの影が薄い自分とおさらばしたくて、大学入学を機に髪を少し明るく染め、勇気を出して学内でも一軍と名高いイベントサークル『アルカディア』に入った。
だけど、現実は甘くない。
根が筋金入りの人見知りでコミュ障な俺にとって、この陽キャたちのテンションに合わせるのは、命がけの登山をしているようなものだった。
「瀬名ー! 次何飲む? 生頼んじゃう?」
「いいね! 俺も生いっちゃおうかな!」
元気よく答えるものの、喉の奥は緊張でカラカラだ。アルコールどころか、本当は温かい緑茶でも飲んで布団に潜り込みたい。
すでに限界メーターは真っ赤に点滅していた。
(あと一時間……いや、三十万歩譲ってあと三十分耐えれば、一次会が終わる……頑張れ俺、ここでボロを出したら『ノリの悪い奴』認定されて浮いてしまう……!)
ぎこちなく笑いながら、ふと視線を感じて斜め向かいの席に目をやった。
そこに座っていたのは、高城柊真だった。
黒髪を無造作にセットし、シンプルなシャツを着こなした彼は、この騒がしい空間の中でも一人だけ静かな存在感を放っている。一見冷たそうに見えるが、整いすぎた顔立ちのせいで女子からの注目度はサークル内でダントツだ。
高城は、グラスを片手にじっとこちらを見つめていた。
その鋭くもどこか冷ややかな瞳と目が合い、俺の心臓が跳ね上がる。
(やばい……何か変な発言したかな!? もしかして『こいつ無理して陽キャぶってて痛いな』とか思われてる……!?)
焦った俺は、ごまかすように「高城も飲んでる〜?」と気さくを装って手を振ってみた。
高城は一瞬だけ呆れたように目を細めると、フッと小さく息を吐き、視線を外した。
(うわあぁぁ! 絶対に嫌われた! どうしよう……!)
胃が絞られるような痛みに襲われ、俺はついに耐えきれなくなった。
「あ、ごめん! ちょっとお手洗い行ってくるね!」
周囲に明るく声をかけ、逃げるように席を立った。
トイレに向かうフリをして俺が向かったのは、居酒屋の奥にある小さな屋外ベランダだった。雑居ビルの中層階にあるそこは、夜風が吹き抜けていて、喧騒が少しだけ遠く聞こえる。
「……はぁぁぁぁぁぁ……」
誰もいないことを確認した瞬間、俺は手すりに体重を預け、本日最大のため息を吐き出した。
張り詰めていた緊張が抜け、肩がガクンと落ちる。両手で自分の顔を覆うと、頬の筋肉が強張ってカチコチになっているのが分かった。
「しんどい……人付き合い、マジでしんどい……」
弱音がポロポロと口から漏れ出す。
頑張って擬態しているつもりだけど、やっぱり自分には向いていないのかもしれない。明日からどうやってサークルに行けばいいんだろう。高城にも不審がられたし、もう詰んだのではないか。
夜空を見上げながら鬱々とした思考に沈んでいた、その時だった。
「……やっぱりここにいた」
「うわあああっ!?」
背後から突然かけられた低い声に、俺は跳び上がるほど驚いて振り返った。
そこに立っていたのは、一番会いたくなかった相手——高城柊真だった。


