○清水の家
清水の部屋は1DKで、中は綺麗にしていた。
冷蔵庫の上に、乙くんが飾られている。
乙くんは眠っている。清水が帰宅する。

清水「ただいまーって、乙くんまた寝てるじゃん」
清水は、冷蔵庫から、栄養ドリンクをぐびっと飲む。
清水「少しは家のこととか、掃除でもしてくれたらいいのに」
清水がぼそっと呟くと、乙くんの目がばちっと開く。

乙「それは無理、僕は可愛いぬいぐるみだから」
清水「あ、起きてたの?分かってますよー」
清水はポテチの袋を開けて、お箸で食べる。
乙「清水さ、ちょっとは自炊したら?毎日ポテチって健康どうなってんの」
清水「えーだって、どうせ同じじゃん」
乙「何が」
清水「どうせ、乙くんみたいに私もぬいぐるみになる日が来るじゃん、だから面倒な事はしないし、私の食べたい物を、食べたい時に食べるだけ」
乙「ふーん、まあいいけどさ、僕も食べて見たいよ」
清水「え、食事できないんだっけ」
乙「当たり前でしょ、ぬいぐるみだって言ってんじゃん」
清水「へーこんなに話せてるのに、至福はないんだ。てか、乙くんの幸せって何かな」
乙「幸せ?そんなの当たり前じゃん、ぬいぐるみでいることだよ、人間みたいに悲しい事も、苦しい事もないし、ずーと幸福だよ」
清水「ふーん、それって幸せになる事が怖いって事だよね、幸福を感じてしまったら乙くんはもう、乙くんではいられないね!」

乙くんの体中がぷるぷる震え出し、歯軋りしていた。
乙「そうだね、僕が僕だからここにいるし、ポテチは食べられないけど、清水とは全然違うから」
清水「あーね、私は私だから、乙くん本当はこっちに来たいんでしょ?」
乙くんの目から、大量の涙が溢れていた。

○ハルカスーパー 
調味料コーナー棚にスマホを挟んで、女子高生4人がティックトックを撮っている。
ダンスを踊っているのは、芹沢、佐伯、飯田、岡山。

芹沢「やっぱー私は、歯磨きキャンセルの方がマシだわ」
佐伯「うーわ、そっち?だったら洗顔キャンセルの方がましじゃね」
飯田「いや、臭いし、歯の方が断然大事でしょ」
岡山「でも、ビジュだって、メイクも落とせないからな」
飯田「うわーその界隈いたくねー、どっちもないわー」
佐伯「それな。てか、春瀬ってなんか臭くね、風呂キャンしてるでしょあいつ?」
飯田「たしかにー野生動物の匂いって感じ」
岡山「風呂キャンと歯磨きキャンと、両方なんじゃね」
飯田「それはやばいわ、時代と逆行して原始人に戻るんか」
佐伯「まあ、どうでもいいんじゃん」

ティックトックの音楽を流して、芹沢、佐伯、飯田、岡山が踊る。芹沢がダンスをやめた。

飯田「おーい、芹澤、どうした」
岡山「合わせなよー」
芹沢「なんか、これ何してんの?」
飯田「え、ダンスだけど」
佐伯「芹沢どうした?なんか溜まってんの」
岡山「っやば、欲求不満?」
佐伯「芹沢も動物なんだね〜」
岡山「匂うんじゃねー」
芹沢「うん、そうだね、たしかに濃いかもね」
佐伯「は?」
芹沢「なんか、消費してるんだよ、他人消費」
岡山「こわ、なに言ってんの」
佐伯「てか、一緒にいるの嫌なんだったら、帰れよ」
芹沢「そうだ、忘れてた、自分で消費しなくちゃ」
佐伯「は?お前の精神どうなってんの」
芹沢「だって、賞味期限近いから、早く濃いの飲まないと」

芹沢は目の前の濃口醤油を、ごくごく飲みだす。それを見ていた、佐伯、飯田、岡山は青ざめていて、盛大に引いていた。

○ハルカスーパー・お菓子コーナー
筒井はお菓子コーナーで、ポテチの角度を微調整して、陳列に生命をかけている。
そこにポテチを右から左に1つずつ床に落とす少女、羽田がいた。
筒井は落としていくポテチを1つずつ拾い微調整して、またポテチを陳列する。

(筒井頑張るんぞ〜、頑張るんぞ〜、頑張るんぞ〜)
マントラのような、るんぞの曲が流れている。

筒井「うわああーーーー」
ポテチとるんぞの繰り返しで、筒井は発狂してしまった。筒井が、羽田を止める。
筒井「君、なんでこんなことするんだ!」
羽田「なんでって、楽しいから、この整ってる道」
筒井「僕より、明らかに頑張ってないのに、お前たちはなんでそんな簡単に」
羽田「簡単だよ、ここに道があったから」 
筒井「は?」
羽田「壊せばいいじゃん」
筒井「な、な、何言って…」
羽田「あーん」

羽田はポテチを開封して、ぼりぼり食べる。
筒井のての口が空いていたので、羽田はポテチを筒井の口にアーンする。
筒井はびっくりして、腰が抜けて床に転けた。

羽田「ねえ、めちゃくちゃ我慢した後って、最高に美味しいでしょ」
筒井「…なんで、そんな簡単に」
羽田「だって楽しいじゃん、一緒に食べようよ」
(筒井、頑張るんぞ〜、頑張るんぞ〜、頑張るんぞ〜)
筒井のるんぞのマントラは声が高くなっていて、可愛い声で応援していた。

鮮魚コーナーの水槽にいる、水城さんはよだれが出ていた。羽田は、水槽の上からポテチをパラパラと入れると水城さんは魚のように、口だけパクパクしてポテチを食べた。

羽田「ふふっ簡単でしょ、人生イージー」
羽田と筒井はるんぞ気分で満たされていた。