着慣れないまっさらな制服に身を包み、入学式の看板が立てかけられた校門をくぐる。校庭に植わっている桜は満開に咲き乱れ、春風にのって花びらがひらひらと舞い散る。
「わぁ~きれいね」
隣を歩く母さんは、桜に見惚れてうっとりと微笑んでいる。黒のワンピースにツイードジャケットを合わせて髪をアップにしている母さん。ところどころ白髪が目立つようになり、当たり前だけどこの人も歳をとるんだなと、母さんの髪に付いた桜の花びらを取った。
「帰りに門のところで写真撮ろうね。お昼はどこかで食べて帰ろうか」
まるで観光に来たみたいに、声がやけに弾んでいる。俺は今から始まる入学式が憂鬱で仕方ないのに。ため息をついてから、これから毎日通うことになる鉄筋コンクリート造の真っ白な校舎を見上げる。今日から高校生、ここでは平穏な生活が送れるように余計なことには首を突っ込まないようにしよう。密かにネガティブな決意をし、のど元まで詰まったネクタイを少しゆるめる。すぐさま母さんに「入学式なんだからちゃんとしなさい」ときっちりネクタイを締められた。
「あの、すみません」
背後から声をかけられて振り向くと、背の高い男子生徒がこちらをじっと見て立っていた。隣に母親らしき女性もいるので、俺と同じ新入生だろう。触り心地のよさそうな茶色の髪に、目鼻立ちがはっきりしている顔、手足も長い。
「あら、お友達?」
母さんがとなりで頭を下げる。向こうの母親も「こんにちは」と頭を下げた。俺もついでに軽く頭を下げながら、記憶を辿る。
(誰だ? こんなイケメン知らねぇんだけど)
イケメンはゆっくりと俺に歩み寄ってくる。他の物など視界に入ってないみたいに、俺だけをまっすぐに見据え、芸能人にでも遭遇したかのようにきらきらと瞳を輝かせている。
(こわっ……)
「は、はじめまして……音無理人っていいます」
緊張した様子で何度も瞬きをしながら掠れた声で名前を告げてきた。
「え?……あ、瀬川千鶴です」
戸惑う俺に、母さんが肘でつんつんと脇腹をつついてきたので、同じく名乗ってしまった。
「瀬川千鶴くん……」
俺の名前をなぞるようにゆっくりと復唱すると、わずかに頬を赤くしてうれしそうに笑った。
「よろしくね」
「お、おう」
俺もつられて少し頬が緩む。どうして声をかけられたのかわからないけど、敵意はなさそうだからいいか。
それからすぐに、入学式の会場である体育館に移動して式に出席した。あのイケメンはちょうど俺の斜め前に座っていて、女子からの視線を集めていた。まさか同じクラスだったとは。その後、教室に移動し、担任の紹介と連絡事項の伝達が終わると解散となった。
席を立ち教室を見回していると、あのイケメンと目が合った。イケメンは俺に何かを言おうと口を開いた。
「え、瀬川? 同じクラスじゃん!」
突然、中学の時の友達・真中に話しかけられた。トレードマークだった外国人の子どもみたいな天然パーマがまっすぐストレートになっている。かわいらしい雰囲気から一変してクールで少し大人っぽい印象になって、一重の目が際立っていた。
「うわ! マジか! 気づかなかった!」
見慣れた顔にうれしくなって、しばらく真中と話しているうちに、教室からイケメンの姿が消えていた。
「なぁ、おまえ、謎のイケメンに話しかけられた?」
「なんだよそれ。新手の詐欺?」
「いや、同じクラスの奴」
「え、イケメンなんていた?」
「……まぁいいや」
真中には話しかけてないのか。マジでなんだったんだろう。変な奴。そう思ったはずなのに、なぜか、あいつの声だけが妙に耳に残っていた。
『よろしくね』
まぶたの裏に、あの照れくさそうな笑顔がちらつく。
(……まぁ、同じクラスだし。そのうち話す機会もあるだろ)
「わぁ~きれいね」
隣を歩く母さんは、桜に見惚れてうっとりと微笑んでいる。黒のワンピースにツイードジャケットを合わせて髪をアップにしている母さん。ところどころ白髪が目立つようになり、当たり前だけどこの人も歳をとるんだなと、母さんの髪に付いた桜の花びらを取った。
「帰りに門のところで写真撮ろうね。お昼はどこかで食べて帰ろうか」
まるで観光に来たみたいに、声がやけに弾んでいる。俺は今から始まる入学式が憂鬱で仕方ないのに。ため息をついてから、これから毎日通うことになる鉄筋コンクリート造の真っ白な校舎を見上げる。今日から高校生、ここでは平穏な生活が送れるように余計なことには首を突っ込まないようにしよう。密かにネガティブな決意をし、のど元まで詰まったネクタイを少しゆるめる。すぐさま母さんに「入学式なんだからちゃんとしなさい」ときっちりネクタイを締められた。
「あの、すみません」
背後から声をかけられて振り向くと、背の高い男子生徒がこちらをじっと見て立っていた。隣に母親らしき女性もいるので、俺と同じ新入生だろう。触り心地のよさそうな茶色の髪に、目鼻立ちがはっきりしている顔、手足も長い。
「あら、お友達?」
母さんがとなりで頭を下げる。向こうの母親も「こんにちは」と頭を下げた。俺もついでに軽く頭を下げながら、記憶を辿る。
(誰だ? こんなイケメン知らねぇんだけど)
イケメンはゆっくりと俺に歩み寄ってくる。他の物など視界に入ってないみたいに、俺だけをまっすぐに見据え、芸能人にでも遭遇したかのようにきらきらと瞳を輝かせている。
(こわっ……)
「は、はじめまして……音無理人っていいます」
緊張した様子で何度も瞬きをしながら掠れた声で名前を告げてきた。
「え?……あ、瀬川千鶴です」
戸惑う俺に、母さんが肘でつんつんと脇腹をつついてきたので、同じく名乗ってしまった。
「瀬川千鶴くん……」
俺の名前をなぞるようにゆっくりと復唱すると、わずかに頬を赤くしてうれしそうに笑った。
「よろしくね」
「お、おう」
俺もつられて少し頬が緩む。どうして声をかけられたのかわからないけど、敵意はなさそうだからいいか。
それからすぐに、入学式の会場である体育館に移動して式に出席した。あのイケメンはちょうど俺の斜め前に座っていて、女子からの視線を集めていた。まさか同じクラスだったとは。その後、教室に移動し、担任の紹介と連絡事項の伝達が終わると解散となった。
席を立ち教室を見回していると、あのイケメンと目が合った。イケメンは俺に何かを言おうと口を開いた。
「え、瀬川? 同じクラスじゃん!」
突然、中学の時の友達・真中に話しかけられた。トレードマークだった外国人の子どもみたいな天然パーマがまっすぐストレートになっている。かわいらしい雰囲気から一変してクールで少し大人っぽい印象になって、一重の目が際立っていた。
「うわ! マジか! 気づかなかった!」
見慣れた顔にうれしくなって、しばらく真中と話しているうちに、教室からイケメンの姿が消えていた。
「なぁ、おまえ、謎のイケメンに話しかけられた?」
「なんだよそれ。新手の詐欺?」
「いや、同じクラスの奴」
「え、イケメンなんていた?」
「……まぁいいや」
真中には話しかけてないのか。マジでなんだったんだろう。変な奴。そう思ったはずなのに、なぜか、あいつの声だけが妙に耳に残っていた。
『よろしくね』
まぶたの裏に、あの照れくさそうな笑顔がちらつく。
(……まぁ、同じクラスだし。そのうち話す機会もあるだろ)



