【長編】正義感がつよすぎるせっかちくんとちょいウザ イケメンなおっとりくん

 夏休みに入ってから、真中にすすめられたモンハンにハマってしまった。気づけば昼夜逆転生活。今日も起きたら夕方三時だった。

 そして今日ーー八月二日は、地元の神社の祭りの日。夕方5時に神社近くの公園に集合し、四人で行く約束をしている。昨夜も懲りずにモンハンをしていたので、今日も夕方3時に目が覚めた。だるい身体を無理やり起こし、急いでシャワーを浴びて支度をする。適当にTシャツにハーフパンツを合わせて家を出た。夕方5時でも、外は異様に暑い。夏休みに入ってからほとんど外へ出ていなかったせいか、西日がすごく眩しく感じる。徒歩十分で着いた頃にはもう汗だくだ。スポドリを一気に飲み干しながら公園を見渡す。浴衣姿の学生カップルや子どもたち、家族連れなど、祭りの客で公園内は賑わっていた。その中に真中たちの姿は見当たらない。俺の家から公園までが一番近いので、早く着いたのだろう。ポケットからスマホを取り出し、到着したことをグループラインにおくろうとしたらーー

 「瀬川くん」

 聞きなれた声に呼ばれて顔を上げるとーー

 「え……あ、音無?」

 私服姿の音無が手を振りながらこちらにやってきた。薄手のブルーのカーディガンに黒のワイドパンツを履いて、手首にはシルバーのブレスレットみたいなのをつけている。爽やかでおしゃれだ。制服で見るより大人っぽく、だいぶ印象が違ったので、見た瞬間は誰かわからなかった。

 「あ、変かな?」

 俺が固まって凝視していたので、音無は不安そうに首をかしげる。

 「めっちゃおしゃれじゃん。誰かと思った」
 「ふふっ、今日は瀬川く……みんなと久しぶりの夏祭りだから、気合い入れてきた」

 一瞬言い直したような気がしたけど、たぶん気のせいだろう。

 「うん、いいよ。似合ってる」

 音無はありがとうと言って、少し照れたように笑った。しばらくして、真中と下野も合流し、俺たちは早速屋台を巡ることにした。
 まずは腹ごしらえということで、食べたい物の屋台に各自並ぶ。俺はここに来る途中に香ばしい匂いを感じ、口内に唾液がたまったので、一番に焼きそばに並ぶことにした。焼きそばをゲットしたら次に狙うのはたこ焼き。これは下野も食べたいと言っていたので下野の分も買った。集合場所である神社の裏の松の木へ向かう。既に下野がいて、手にはりんご飴とかき氷を持っていた。

 「これじゃ腹いっぱいになんねぇだろ」

 下野にたこ焼きを手渡す。

 「え、買ってきてくれたの!? ありがとう」

 二人で適当に段差のある場所に座る。まずは焼きそばを勢いよく口に流し込む、うまい。次に、たこ焼きを食べながらうまいうまいと言っていると、下野がかき氷のスプーンを口に突っ込んできた。

 「ちょ!? つめた!」
 「たこ焼きのお礼」

 にこにこしている下野。善意でしてくれたことに文句を言えるはずもなく、冷たくてうまいと言ったら次々と口に放り込まれて、口内はたこ焼きソースの味から爽やかなブルーハワイ味へと変わり、舌が青くなってしまった。べっと舌を出すと下野がおかしそうに笑いながらスマホを構えて写真を撮っている。

 「楽しそうだね~」

 手に、から揚げやポテトを持った音無がやってきた。顔は笑っているのに目は笑っていない。なんか、怒ってる……?ドスンと俺の隣に腰かけたと思ったら、俺の口元にポテトを持ってきた。下野のは食べて音無のは食べないわけにはいかず、おずおずと口を開くと、にっこりと笑った音無に次々とポテトを放り込まれる。うまい、うまいんだけど少し休憩したい。ポテトをたいらげると、なぜか音無が満足そうに頷いている。よくわからないが、やっと休憩できると思ったらーー

 「なになに~みんなで瀬川に餌付けしてんの?」

 集合時間を大幅に過ぎてから真中が現れた。手には、ステーキ串、イカ焼き、とん平焼き、焼き鳥、お好み焼き、デザートに五平餅まで持っている。

 「じゃあ、俺もーー」

 隣に座ろうとする真中を押しのけて立ち上がり、「水を買ってくる」と言って急いでその場を離れた。しばらく人の波に沿って歩いていると自販機が見えた。いっぱいになった腹をさすりながら財布から小銭を取り出していると、背後から手が伸びて小銭が投入されピッとミネラルウォーターのボタンを押した。驚いて振り返ると、音無がいた。

 「さっきはごめんね」
 
 申し訳なさそうに苦笑しながら自販機から取り出したミネラルウォーターを差し出す。音無の苦笑の意味がわからず、音無の顔とミネラルウォーターを交互に見ていると、無理やり手にペットボトルを握らされた。

 「瀬川くんが絡むと、抑えられてたものがあふれ出ちゃうみたい」

 俺が下野にかき氷を食べさせてもらっていた時、音無が怒っているように感じた。理由はわからないけど。

 「自分でもびっくりしてるんだ」

 ため息をつく音無。俺は水を少し口に含んでのどを潤す。

 「抑えなくていいんじゃね?」
 「え?」

 まっすぐに俺を見つめる。

 「さっき怒ってたんだろ? そういうの我慢する方がしんどいだろ」
 「……怒ってたっていうのとは少し違うけど、あまりいい感情ではないから」
 「気にしすぎ。俺なんかずっと怒ってるし」
 「……あぁ、確かに。いつも怒鳴ってるよね」
 「いや、そこは否定しろよ」

 あははと音無が肩の力が抜けたように笑う。俺も安心してがばがばと水を飲んでいるとぐいっと距離を詰められた。

 「じゃあ、これからは遠慮しなくてもいいってこと?」

 なんのことを言っているのかはわからないが、熱を帯びた音無の目がじっと俺をとらえて離さない。ひゅっと息を呑む。更に距離を詰めてくるので、俺は音無に目を向けたまま一歩二歩と後ずさる。背中がドンと何かにぶつかった。自販機だ。これ以上後ろには行けない。蛇に睨まれた蛙とはこういうことを言うのだろうか。音無はゆっくりと自販機に手をついた。壁ドンされている状態になり、逃げ道が断たれた。顔が、近づいてくる。どくんと心臓が揺れる。目を瞑ることもできなくて、俺は無理やり音無から視線を剥がした。

 「瀬川くん?」

 耳元で聞くその声は、穏やかなのに鼓膜を刺激する。どくどくと心臓が早くなって、顔が熱くなる。この感覚には覚えがある。体育祭の時と同じ、いや、それ以上かもしれない。

 「やっとみつけた」

 音無の背後から下野の声が聞こえ、音無が振り返った。

 「も~二人ともどっか行っちゃうんだもん。電話にも出ないし」
 「ごめんごめん、今から戻ろうと思ってたとこ。真中くんは?」
 「射的やってたけど失敗しまくって、ムキになってずっとやってる」
 「そうなの?」

 下野との話の途中でチラとこちらを振り返り、「瀬川くん、いこっか」と穏やかに笑いかけてきた。いつもの、音無だった。俺は胸に手を当てて息を吐き「おう」と返事をして二人の後についていった。

 何度目かのこの感覚。気のせいだと思っていたけど、気のせいじゃなかった。