中学二年生頃から急に身長が伸び、高校に入る頃には187センチくらいになっていた。部活は引き続き陸上部を選択し、中距離選手としてそれなりに有名だったこともあり、一年の時から大会に出場させてもらえる機会が度々あった。
「結城くんって、ホント王子様みたいだよね~」
「うんうん。ビジュもそうだけどスタイルもいいし、なによりあの優しい声が王子っぽいよね! ちゃんと女の子扱いしてくれるのもほかの男子と違うっていうか」
自分よりも小さくて簡単に壊れそうな女の子たち。大事にしないといけない気がして、必要以上に気を遣ってしまうのも悪いのかもしれない。
無意識にやっていることでもあるため、その後の女の子の反応を見て「またやってしまったかもしれない」と後々後悔してしまうこともあった。
「あんまり気を持たせない方がいいと思うけど。結城は誰にでも優しいから、その気がなくても勘違いされそうだよな」
かと言って、今更冷たくしたらそれはそれで「今日は機嫌悪いのかな?」などと、的外れなことを思われそうだが。
(別に誰かに好かれたくてやってるわけじゃないんだけれど……気を付けよう)
とある大きな大会の一週間前。
その少し前から足首に違和感を覚えつつも、大会が近かったこともあって無理に練習を続けた。タイムも早くなるどころか記録がまったく伸びない。伸ばすために必死に走り込みを続けた。結果、それが良くなかった。
もっと早く病院に行っていたら。
違和感を無視しなかったら。
練習をセーブしていれば。
タイムが伸びないことに焦っていたこともあって、周囲の言葉に耳を傾けなかった自分自身を憾んだ。当然、大会は辞退。その後は一気にやる気がなくなってしまい、そのまま退部することにした。
治っても同じようには走れないかもしれないという医者の診断。激しい運動を繰り返せば、また症状が出るかもしれないという不安。まだ高校生活は二年以上残っているというのに、無気力なまま過ごさなくてはならないストレス。
(二年になったら、勉強に専念しよう。母さんはむしろそっちの方を望んでいたし、父さんはいつも通り俺の好きにしろって言ってたし)
学業優先。両親、おもに母親は「いつまで続けるつもりなの?」と、部活で帰りが遅くなる度に小言を口にした。いずれ、自身が経営する会社を継いで欲しいというのが本音なのだろう。地元ではそれなりに有名な賃貸物件を取り扱う会社で、アパートやマンションをいくつも保有していた。
目標もなく無気力な日々を送る中、嫌でも目に入るグラウンド。陸上部もそうだが、他の運動部が頑張る姿に対してさえ、胸の奥に暗い感情が過る。全然優しくなんかない。王子様なんかじゃない。理想を自分に押し付けないで欲しい。普段通りに笑っていても、心の底では羨んでいる自分がいた。
高校一年の夏休み。
日曜日の夜。勉強の合間の休憩時間に、なんの気なく配信アプリを開き、面白そうな配信がないか画面をスクロールしていた時のことだった。
動画投稿サイトとは違い、この配信アプリに関しては、今までも特定の配信者の配信を視聴するということはなく、目についたサムネを少し覗いては別の部屋を転々とし、最後まで視聴することはほとんどなかった。
数えきれないほどのライブ配信が流れる中、目に留まったのが【水無月レオ】の歌枠配信だった。
(Vチューバーの配信か。最近多いけど……この子は知らないかも)
短髪外ハネの水色髪の中性的で可愛らしい容姿の少年。青と白を基調とした和装と洋装が混ざったような面白いデザイン。十五、六歳くらい? 話すたびにくるくると変わる表情も悪くない。
その声は慣れていないのか少したどたどしいが、なんだか気になる。最初はその程度の印象だった。
『毎週日曜日のこの時間に、配信をさせて? いただいてます……えっと、水無月レオっていいます』
大丈夫かな、この子……、と弥玖は思わず心配になる。視聴者数は現在三人。見た目はいいかもしれないが、会話があまり得意ではなさそうだ。コメントも始まったばかりだからかゼロで、三人しかいないのに開始一分程度で一人減ってしまった。
『あんまり話すのは得意ではなくて……なので、僕が大好きな歌を聴いて欲しいなという気持ちです』
そう言えば歌枠とV体の左上の方に書いてある。
『じゃあ、最初の曲は……あれ? えっと、ここをこうして……わっ⁉ ご、ごめんなさい! はあ……びっくりした……』
曲を流そうとしたら、大音量が流れてきた。本人もびっくりしていて、思わず弥玖は笑ってしまう。ほっとしている表情も、その後のはにかんだような笑い方も、なんだか本当にそこにいるようで。
(今まであんまりVチューバーに興味なかったけど、表情が変わるのは面白いかも)
なにより、この【水無月レオ】というキャラクターがツボりつつあった。
『き、気を取り直して……じゃあいきます、ね?』
すぅという息を吸う音が耳をくすぐる。その数秒後、イヤホンから伝わってきたのは別人かと思うくらい堂々とした歌声だった。しかも歌が始まった途端、視聴者数が急激に増えていき、いつの間にか三十人以上に。
夏とアオハルを感じさせる爽やかさと、それと相反するような残酷な歌詞が特徴的な、色んな歌い手が歌っている有名な曲だった。透き通るような、けれども明るくキラキラした【水無月レオ】の声質にぴったりで、同じことを思ったのかコメントも流れていく。
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ゆうか@yu-ka02
歌うと印象違うね! でもこの曲にぴったりな声
ゆい@yuiyui_reo
なんか世界観が伝わってくる♪
好きな曲!
たんの@tanon-tan
良い声だな
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弥玖も応援したくなって、なんとなくだがスマホで文字を打つ。コメントなんてしたことがないので、なんだか緊張する。ポイントはもっていないので、他の視聴者のようになにか贈ったりはできない。けれども感想くらいは送りたいと思わせてくれるような歌声だった。
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ゆきしろ@yukisiro_12
歌が好きなの伝わった
めと@merometo
ありがとう! めっちゃ好きな曲!!
いち@ichini-san
いいね♪
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流れては消えていくコメント。弥玖の送ったコメントはすぐに見えなくなってしまったが、満足だった。それが【水無月レオ】に送った最初のコメントだった。



