『―――、星爆ありがとう! これで全部かな? 大丈夫? 星爆も流れ星もすごく嬉しいけど、みんな本当に無理しないでいいからね? お小遣いとかお給料とか、ちゃんと自分のために使って欲しい』
配信も終わりに近づいて、星爆、流れ星、この配信サイトでの投げ銭に値するアイテムをくれたリスナーたちの名前を読み上げた後、水無月レオは遠慮がちにそう言った。
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カノン@kanen_tuiki1224
はーい!
りお@rio_mina
ツンデレいるww
kairi@ka_iri05
む、無理してないし
みお@mio_ch
はーい!
ゆうか@yu-ka02
大丈夫だよ! なんならレオくんのために働いてる
ゆい@yuiyui_reo
こちらこそ、今日も素敵な歌をありがとうだよ
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流れるように上から下にどんどんコメントが生まれては見えなくなっていく。これらのコメントを配信中にすべて読むのは正直難しい。
この配信サイトのアイテムと呼ばれるものには種類があり、可愛らしいイラストタイプのアイコンがそれにあたる。それはいくつかのグレードがあって、星、星爆、流れ星の三つだ。
黄色い星マークが無料のアイテムで誰でも投げられるタイプ。赤い星が二つ重なっているのが星爆、その上の青い星の流れ星が投下されると画面に星が降り注ぐ演出が見られる。
この二つはポイントを購入して交換できるアイテムで配信者の収益に繋がる。これらは数が多ければ多いほどサイトのおすすめ欄にのりやすくなり、推しの配信者を目立たせることができるのだ。
『本当にありがとう。明日からまた月曜日が始まっちゃうけど、みんなも学校にお仕事に頑張ろうね。僕もみんなのおかげで頑張れる。また来週の同じ時間にみんなと会えるのを楽しみにしてるね』
エンディングのフリー音源を一分ほど余韻を残すように流しながら、配信の終了ボタンを押す。コメント欄に「おつかれさま」の文字が無限に流れ、配信終了とともに途切れた。
「おつかれ、詩音」
しばらくして、部屋に入ってきたのは九歳年上の兄、水沢彰人だった。配信が切れているのを再度確認してから、ゲーミングチェアから立ち上がる。
小柄で細身、長めの前髪、眼鏡。いかにも地味で大人しそうな見た目。画面にはV体と呼ばれるバーチャルの分身が、目を閉じて首をこてんとしている姿が映っていた。
青と白を基調とした和装と洋装が混ざったようなデザインの服を纏った、水色髪の十五歳くらいの美麗で優し気な少年の姿をしたV体。先ほどまで約一万人の視聴者の前で歌っていたのが、このVチューバー『水無月レオ』なわけだが……。
「う、上手く歌えたかな? 音外してなかった?」
ぼそぼそと遠慮がちに小声で確認するように訊いてくる弟に対して彰人は、
「コメント見ただろ? それが答えだよ」
と言って、詩音の頭をよしよしと撫でた。
流れてくるコメントは「笑顔になる声」とか、「おひさまみたい」とか。 全肯定のものばかり。もちろん、レオを推してくれているリスナーたちなわけだから当然だろう。
わざわざアンチが貴重な時間を使って配信を見たりはしないだろうし、それはもはやアンチでなくただの厄介ファンである。
水沢詩音。今年から高校二年生で、ちょうど二年前の春から兄である彰人にすすめられ、ライブ配信をするようになった。おもに歌の配信を中心に活動しており、動画投稿サイトにもアーティストのカバー曲やボカロ曲をカバーした『歌ってみた』動画を上げている。
一年前に上げたとある動画投稿がバズって、現在登録者数十万人以上のそれなりに有名な人気のVチューバーになってしまったわけだが。
「……それは、そうなんだけど」
当の本人はあまり嬉しそうではなかった。なんとなくやってみようと始めた歌配信。歌うことが好きで、でも人前で歌うなんて無理で。でも自分の分身として生まれた『水無月レオ』は、たくさんのリスナーに声を届けている。
対面だと日常会話すらままならないコミュ障。本来の自分とのギャップが、詩音を悩ませていた。
最初の頃の、数人のリスナーの前で歌っていた頃が懐かしい。あれからまだ二年しか経っていないのに。自分の想像以上にレオの存在が大きくなってしまったこと。レオがどんどん成長しているのに、詩音はまったく変わっていないという劣等感。
(僕にはそんなの、絶対に無理だよ……)
話しかけられても上手く返せない。声も小さくて、自信もなくて。誰も詩音を見てはくれない。こんな自分を好きになってくれるひとなんているわけがない。かと言って、自分が『水無月レオ』だと公表しても誰も信じてくれないだろう。
「あ、そうだ。来週の配信、コラボ配信のお誘いが来てるけど、どうする?」
「え? 誰から?」
詩音は暗い気持ちになっていたところに、コラボ配信というワードを耳にし、ますます暗い表情になった。誰かと一緒に配信をやるなんて怖すぎる。アドリブほど苦手なものはないし、フリートークなんてもっての外だ。
「お前もよく知ってる子だよ。如月らいと。同じ事務所のゲーム実況者。何度か一緒に動画でコラボしたことあるし、前に出した歌の動画も評判良かったから、どうかなって」
如月らいと。ゲーム実況を中心に動画を上げているVチューバー。たまに雑談配信をしている彼は、トーク力が優れていてアドリブも上手い。所謂、イケボを売りにしているVチューバーで、カッコいいのに面白いお兄さんというイメージだ。
だがしかし、詩音には不安しかない。彰人の言い方だと、すでに決まったような言い回しだったし、断るという前提で進めていないのも感じ取れる。
「……や、やってもいい、けど、」
本当はやりたくないけど、リスナーのみんなは喜んでくれるだろう。それに、断ったら断ったで後々なにか言われそうだし。
詩音は歯切れの悪い返答をするしかなかったが、彰人は嬉しそうに「わかった、連絡しとく」とスマホを手に満面の笑みを浮かべるのだった。



