夏。夏。夏。世界のどこを見ても、そこには夏だけが存在している。明るく煌めく緑の夏草、蒼く突き抜ける空に、綿菓子の雲、陽光に照らされてちらちらと光る小川。そのどれもが青い夏を創り出し、心が揺らぐ。入道雲に目を止める。そこに君は居ますか。いや、居ないだろうな。君はそんな高いところには行かない。
頬を汗が伝い、乱暴に拭った。このままだと蒸し鶏になるな。いや、茹で蛸だろうか。君ならなんと言いますか。彼女は、こういった話に結論を付けるのが得意だった。それは、私が一生をかけても思い付かない結論だった。才のある思想で、それが美しくていてもたってもいられなくて、恋をした。
思案する。君が居たらの別世界。君がここに居たら、どれだけ涼しく感じるかな。この何も無い道をどれだけ楽しく歩けるか。色の無い砂利道を、鮮やか極彩色で彩ってくれる。もう居ない人のことを考えると、不意に世界の真理に気付きそうになる。実際、真理が何ものかも知らないし、きっと解ってもそれに気付かないのだが、何故か、そんな気分になるのだ。
緩やかな坂で、砂利を踏みしめる。真昼の太陽は輝きを増して、ただの小石すら光らせるから目が痛い。空の明るさが目に染みて、代わり映えしない砂利を虚ろに見ている。蝉の死骸。蟻の行列。人間がこの大きさでなくて良かった。
君の墓に、君は眠っていないと思った。死後、君の魂が自由に動けるとして、君が居そうな場所。君と会える場所は、ここしかないと感じていた。丘の入口、大きな樹。青々と葉を茂らせ、薄い風に揺れている。丁度いい木陰があって、丁度あの日、君を待っていた姿で目を閉じる。誰にも邪魔されぬ時間の中で、君の伊吹を感じた。気がする。真実だったら良い。
あの日、眠りから覚めると君が居た。いや、逆だろうか。君が居たから目が覚めた。寝ぼけ眼の僕の瞳に映ったのは、天使だった。そこに可愛らしく佇んでいた。天使か、菫だったかな。それとも綿毛か、鶯か。なんだろう。なんでもいい。それこそ、言葉如きが語れぬ姿で、とにかく美しかった。私は彼女のことしか見ていなくて、花の記憶はうっすらとしか残っていない。見抜かれていたのが、恥ずかしい。
地面に触れて、君へ。十九歳の少女としての君へ、最期の愛を伝えよう。
「君の瞳に私は、愛しい女の死を美しさすら言い訳にして笑えるほど、下劣な人間に写りましたか。私は、君ほど美しい人間を知りませんから、堪らなく哀しいのです。ただ、哀しみに暮れているのです。
でもね、君の文章を読むと少し楽になります。やっぱり君の言葉は私の好みにぴったりで、文章を書くことを提案した者に賞賛を贈りたいぐらいだ。君の提案、少し考えてみよう。一番初めに原稿を読ませてあげるから。
どんな形でも良いさ。また私の前の現れてください。私の運命というものを信じ込ませてみせて。そうしたら奇跡をもう一度なぞりましょうか。これを読んで笑える日は、また君に出会った日です。
近いうちにもう一度、次は陽溜りの中で愛をしましょうね」
頬を汗が伝い、乱暴に拭った。このままだと蒸し鶏になるな。いや、茹で蛸だろうか。君ならなんと言いますか。彼女は、こういった話に結論を付けるのが得意だった。それは、私が一生をかけても思い付かない結論だった。才のある思想で、それが美しくていてもたってもいられなくて、恋をした。
思案する。君が居たらの別世界。君がここに居たら、どれだけ涼しく感じるかな。この何も無い道をどれだけ楽しく歩けるか。色の無い砂利道を、鮮やか極彩色で彩ってくれる。もう居ない人のことを考えると、不意に世界の真理に気付きそうになる。実際、真理が何ものかも知らないし、きっと解ってもそれに気付かないのだが、何故か、そんな気分になるのだ。
緩やかな坂で、砂利を踏みしめる。真昼の太陽は輝きを増して、ただの小石すら光らせるから目が痛い。空の明るさが目に染みて、代わり映えしない砂利を虚ろに見ている。蝉の死骸。蟻の行列。人間がこの大きさでなくて良かった。
君の墓に、君は眠っていないと思った。死後、君の魂が自由に動けるとして、君が居そうな場所。君と会える場所は、ここしかないと感じていた。丘の入口、大きな樹。青々と葉を茂らせ、薄い風に揺れている。丁度いい木陰があって、丁度あの日、君を待っていた姿で目を閉じる。誰にも邪魔されぬ時間の中で、君の伊吹を感じた。気がする。真実だったら良い。
あの日、眠りから覚めると君が居た。いや、逆だろうか。君が居たから目が覚めた。寝ぼけ眼の僕の瞳に映ったのは、天使だった。そこに可愛らしく佇んでいた。天使か、菫だったかな。それとも綿毛か、鶯か。なんだろう。なんでもいい。それこそ、言葉如きが語れぬ姿で、とにかく美しかった。私は彼女のことしか見ていなくて、花の記憶はうっすらとしか残っていない。見抜かれていたのが、恥ずかしい。
地面に触れて、君へ。十九歳の少女としての君へ、最期の愛を伝えよう。
「君の瞳に私は、愛しい女の死を美しさすら言い訳にして笑えるほど、下劣な人間に写りましたか。私は、君ほど美しい人間を知りませんから、堪らなく哀しいのです。ただ、哀しみに暮れているのです。
でもね、君の文章を読むと少し楽になります。やっぱり君の言葉は私の好みにぴったりで、文章を書くことを提案した者に賞賛を贈りたいぐらいだ。君の提案、少し考えてみよう。一番初めに原稿を読ませてあげるから。
どんな形でも良いさ。また私の前の現れてください。私の運命というものを信じ込ませてみせて。そうしたら奇跡をもう一度なぞりましょうか。これを読んで笑える日は、また君に出会った日です。
近いうちにもう一度、次は陽溜りの中で愛をしましょうね」


