俺は今、多分すげぇ変な顔をしている。
「あ、あそこに住んでんの?」
念のためマンションを指差し再確認をする。
「そう、あそこ」
「ル・グラン・ダムール愛羅?」
「の、B棟。五○五号室」
「・・・・・・俺、A棟の六○三号室」
「知ってる」
「なんで知ってんだよ⁉」
「一年の時も帰宅部だったし。朝、学校行くときも被ることあったから」
頭をフル回転し、記憶を呼び起こそうとするが同じ学校の生徒を俺はマンションの敷地内で見た記憶がない。
俺、蓮之助の事ほとんど覚えてないんだな。頭を捻らないと何一つ思い出せない。
そんな事を思っていると、俺は疑問が生じた。蓮之助の顔を見つめ首を傾げる。
「いつ越してきたんだよ」
「え? えーっと・・・・・・小学校入る時かな」
そしてまたそこで疑問が生じる。
「俺は幼稚園の頃に越してきたんだけど、お前とは小学校も中学校も違うよな?」
「あぁ・・・・・・、違うね」
俺は幼稚園に通っていた頃に、このマンションに引っ越してきた。
蓮之助は小学校入学時に引っ越してきた。同じ町なんだ、なんで同じ学校じゃなかったんだ?
質問の意図を察したのだろう。蓮之助は遠くの山を指差した。
「あそこの山の中に小中一貫の学校があるの知ってるよね。あそこに通ってたんだよ。篠田も」
「あ~・・・・・・、確か山並学園・・・・・・だっけ? って篠田も⁉」
思いがけない名前が出てきて驚く。蓮之助は小さく頷くと学園があると思われる方向を見つめる。
「自然に触れて育ってほしいとかで山並学園に入れたんだってさ。生徒数少ないからさ、ずっと篠田とは同じクラスだったんだ。あんま話さなかったけどな。・・・・・・高校生になってもアイツは変わらないよ。良い意味でも悪い意味でもな」
篠田の話になり、ノートの件を思い出した。コイツに話したくはないが今、本音で話せるのは蓮之助しかいないと思った。
「・・・・・・俺さぁ、今日篠田に言いすぎたかな」
「あっ、気にしてんだ。意外と優しい所もあるんだな」
「一言余計なんだよ、お前は。俺はいつでも優しいわ」
すると隣からぷっと噴き出す音が聞こえた。見れば蓮之助は口許を押さえ笑っている。
コイツ、一挙手一投足ムカつくな。
「篠田は大丈夫だよ。むしろ響が発破をかけたくらい」
言っている意味が分からず俺は首を傾げた。
もうすでにマンション内だ。俺達は敷地内で自然に足を止め、話を続ける。
「小学校高学年の時にアイツ、算数のテストで十三点取ったことあるんだよ。そん時の先生がめちゃくちゃ怖い先生でさ・・・・・・ちゃんと授業を聞いているのか! って怒られて泣いてたんだよな。でも次のテストで何点取ったと思う?」
俺は身を乗り出すように「何点?」と訊く。
「八十二点」
「うっそ!!」
蓮之助は「ビックリだろ?」と白い歯を見せ、笑っている。
トクンッと胸が高鳴るのを感じ、意識を話に集中する。最近心臓が高鳴る時がある。正直、変な病気なんじゃないかと思って怖くなる。が、主にコイツといる時になるからコイツが多分悪い。
「普段は剽軽で先生によく怒られてる奴なんだけど、やる時はやる奴なんだよな。だから次のテストは案外響と点数変わらなかったりして」
「はぁ⁉ 学年一位の俺だぞ! そう簡単に超されてたまるか」
腕を組みそっぽを向く。そう、俺は死ぬほど勉強をして中学生の頃からずっと学年一位の地位を守ってきたんだ。そう易々と抜かれてたまるか。篠田へのライバル心が出てきたら申し訳ない気持ちも綺麗に霧散した。悩んでた自分が馬鹿らしい。俺は蓮之助に向かって「じゃあな」と一言返すと、背中を向けた。
「あ、待って、響。ID教えて」
「ID? 何の?」
そう言うと蓮之助はスマホを左右に揺らし画面を見せてくる。表示されていたのはトークアプリの友達検索ページだった。
俺は小さく「あぁ・・・・・・」と声を漏らすとスマホを通学バックから取りだし蓮之助にIDを教えた。蓮之助は友達欄に追加された俺のプロフィールをまじまじと見ては微笑んでいる。
何がそんなに嬉しいんだか・・・・・・。
「ありがとう」
「どーいたしまして」
俺達は今度こそ本当に自分達のマンションに帰っていった。
