オモテの僕とウラの俺。


 付き合う? 付き合うって何処へ? ・・・・・・それとも交際の方の付き合う? 
目を(しばたた)かせ相手を呆然と見つめる。開いた口が塞がらない。なんて返したら良いのかが分からない。
「期限は十一月三日の文化の日まで。俺の誕生日ね。その日に動画は消してやる。ちゃんと響の目の前でな」
 何をコイツはつらつらと喋ってるんだ。期限が決まってるって事は交際の方の付き合う・・・・・・って事だよな? 
 今がちょうど十月一日だから、約一ヶ月間付き合うのか? コイツと? ていうか、これって・・・・・・。
「脅し・・・・・・」
 ポツリと溢れた言葉に蓮之助はピクッと反応し、ニッコリと笑う。それは鳥肌が立つほど不気味な笑みだった。
「うん、脅しだな。でも大丈夫。俺の誕生日まで付き合ってくれたら終わるから。あっ、あと昼飯も一緒に食べようか。それと明後日は土曜日だからデートもしようか」
 淡々と決められていく予定。混乱する頭でもポツポツと言葉は出る。俺は不敵な笑みを浮かべる男を呆然と見つめ「何を勝手に・・・・・・」と呟いた。
「な、何を勝手に決めてんだよ! てか、付き合うって何? 俺とお前が? 面白くねえ冗談だな。そんなに俺を揶揄(からか)いたいのか⁉」
 カチリッとスイッチを入れられたように、混乱していた脳が正常さを取り戻す。立ち上がり蓮之助のスマホを奪おうとしたが華麗に身を(ひるがえ)し、スマホを持っている右手を高々と上げる。手を伸ばしたり、爪先立ちをしても俺の身長ではぎりぎり届かない。
「つか俺、男なんですけど⁉ お前ってそっち系⁉」
 口を開こうとした相手の顔に手を(かざ)し言葉を遮る。
「いや、今はお前が男を好きだろうが女が好きだろうがどうでもいい。なんで俺なんだよ。いつバラされるかビクビクしてる俺を見たいからか?」
 スマホを取ることを一旦諦め、両手を腰にあてる。鼻から肺に空気を取り込み、口から溜息として出る。
「あー、それもあるかも。でも一目惚れだったから。こんなチャンス逃すわけないだろ」
「・・・・・・趣味悪っ」
「そんな事したら逆に嫌われるだろ」喉まで出かけた言葉を飲み込む。いや、むしろもっと俺に嫌われればいい。
「残念だったな。一目惚れした相手がこんなクソな性格で」
 鼻を鳴らし、せせら笑うと蓮之助は(いぶか)しげな顔をして首を傾げた。
「クソな性格もなにも・・・・・・途中から分かってたし」
「んな訳ねぇ! 俺がどれだけ今まで完璧人間を演じてきたと思ってんだよ」
「その完璧人間を見破れる奴だっているんだよ」
 どっこいしょっとおっさんの様なかけ声をだし、階段に再び座る。(かたわ)らに置いてあった袋を漁ると中から焼きそばパンが出てきた。袋を開ける男を見て自分もまだ昼食を食べていないことに気付く。俺は蓮之助と距離を少し空け隣に座る。
「・・・・・・入学式の日。新入生代表の挨拶してたよね」
 唐突の昔話に弁当の蓋を開ける手が止まる。
「あぁ、うん」
 そう言えば挨拶したな・・・・・・、等と思い出に(ふけ)る。合格発表がされた何日か後に学校から直接電話で申し出が来たのだ。俺は即決し、すぐに両親に報告をした。両親は宝くじで大金でも当てたかのように大喜びしていたが、正直、大勢の前で挨拶なんて面倒くさいことはしたくなかった。けど『優等生の牧野響くん』をみんなに印象づけるには良い機会だと思った。結果上手くいったし。
「それが?」と言葉を促す。蓮之助は澄んだ青い空を見上げると薄らと微笑んだ。
「みんなの前で挨拶する響に一目惚れした」
「はぁ・・・・・・」
 溜息にも似た相槌が口から漏れる。
俺は蓮之助の横顔を穴が空くんじゃないかというくらい見つめた。
感情に任せ『根暗』と言ってしまったがよくよく見れば蓮之助は涼しげな雰囲気を(まと)っているように感じた。一言で表すならクールという表現の方が自然なのだろうか? 再び一年生の時を振り返る。俺が覚えている範囲だと、誰かと話している所は滅多に見なかったし、教室の隅で勉強をしているか本を読んでいる姿しかやっぱり思い出せない。髪の毛はボブで目は前髪で隠れていたから顔のパーツもそこまで覚えてない。今も目は前髪で隠れているが端正な顔立ちが前よりは見て取れた気がする。前髪から覗く目は俺と似てつり目だが先程とは打って変わりどこか優しげだ。鼻も高いし、唇も上下均等で血色が良い。髪の毛で隠れているがピアスも何個かしているようだった。
 地味に良い顔しやがって・・・・・・。
 軽く舌打ちをし、横顔に見とれていた自分を現実世界に戻すために首を左右に振る。
深呼吸をし「一目惚れねぇ」と話を戻す。卵焼きを頬張り咀嚼(そしゃく)していると横から伸びてきた手にタコさんウィンナーを持っていかれる。・・・・・・タコさんが宙を浮いてる。
「って、俺のタコさんウィンナー!」
 それをパクッと頬張ると「タコさんウィンナー一個くらい良いだろ。こっちはパン一個駄目にされてんだよ」と言われ、口を噤む。それは確かに俺が悪い。胸ぐら掴んだ際に落としたはずだから何も言えない。
「・・・・・・正直、一目惚れするなんて思わなかったわ。一目惚れって漫画やドラマだけの話かと思ってたし」
 一目惚れした時を懐かしむように目を細める蓮之助に「ふぅん」と興味なさげに返す。
「・・・・・・で? いつから気付いてたわけ。俺の本性に」
「同じクラスになって・・・・・・少しした時?」
 そんな早くから気付いてたのかよと頭を抱える。何度目か分からない溜息を吐き、白米を口に運ぶ。
 俺の『真面目でみんなに優しい優等生』は完璧なはずだったのに。
横から聞こえる紙パックがへこむ音を耳が拾う。
「まぁ、もうノート貸すの止めたら? (はた)から見たら良いように使われてるようにしか見えないし・・・・・・。それに良い子ちゃんぶってたってみんなに好かれるわけでもない。嫌ならはっきり言いな。相手のためにもならない」
「・・・・・・うるせぇよ」
 クシャッと焼きそばパンの入っていた袋を握り潰すと腰を上げ、蓮之助は俺に一目もくれず体育館裏から姿を消した。
『付き合って』っと言ったわりに、態度が冷たい気がする。付き合うってこんなもんなのか? ていうか俺、了承もしてない・・・・・・。
 勉強一筋で恋愛経験がない俺にはこれが普通なのか分からなかった。