ぬい変身 ~高校生サバイバルオーディションに参加したら、消えた推しVと再会した件~

 かつて家庭科室として使用されていた教室には、まだミシンが残されていた。窓際の棚に、ずらりと並んで威圧感を放っている。
 ぞろぞろと教室に入ってくる一同を、ノブナガが黒板の前で腕組をして出迎えた。
 彼の前の長机には、色とりどりの布や毛糸、様々な形のボタンやビーズが並べられていた。それから、こんもりと積まれた綿も。

「僕からの贈り物は気に入ってくれたかな。個別の得票数を明らかにしないのはおかしいと批判を受けたので、代わりと言ってはなんだが、配信コメントを印刷して掲出してみた。これで多少は視聴者のリアクションが伝わるだろう」

 きみたちはスマホも没収されていることだしね。
 そう言うノブナガの表情は、やはり淡々としている。貼り出されたコメントが巻き起こした一連の騒動など、知らぬ顔だ。

「参考になった! 毎朝やってくれると嬉しいな〜」

 素直なソウタの言葉に「そのつもりだ」とうなずいて、ノブナガは話を続ける。

「さて、早速ふたつめの課題を発表しよう。次の課題は……いいタイミングだな」

 ノブナガは背後の黒板に勢いよく文字を書きなぐった。

「『ぬい』制作だ。それぞれの参加者を模したぬいぐるみを、一から作ってもらう」

 ルイの舌打ちが聞こえた。
 ミツキの心も穏やかではない。「いいタイミング」というノブナガの言葉から、彼が一同のあいだにぬいをめぐる軋轢のあることを知っていて、それでもなお――いや、それだからこそ、企画を面白くするために利用するのだと、わかってしまった。

「しかし、単に自分のぬいぐるみを作るだけでは面白くないからな。今回は、ほかの参加者のぬいぐるみを作ってもらう」

 教室に、声にならないざわめきが広がる。

「二人組と三人組に分かれて進めてもらおう。グループ分けも含めて、自分たちでおこなってくれ。期限は明日の午後五時まで。この教室にあるものはなんでも使ってくれて構わない。十年以上前の教科書や資料集も含めてね。もちろん、推し活ブーム前の教科書だ。人型のぬいぐるみの作り方は載っていないだろうが……」
「この課題の評価基準は?」

 ノブナガの言葉を遮り、ダイチがよく通る声で尋ねた。ノブナガは無表情な瞳をわずかに細めて答える。

「そんなものはない。選ぶのは視聴者だ」
「運営がそれじゃあ、まずいんじゃない? 明確なビジョンを示すべきだよ」
「……理想論だな」

 ノブナガは、どこか卑屈そうに唇を歪めた。

「僕のすべきは、このオーディションを盛り上げること。それだけだ。より多くの同接を、再生数を、投票数を稼げる候補者ほど、優秀なアンバサダーだろう」
「バズればなんでもいいのか?」

 「わかった、わかった」と、ノブナガはうっとうしそうに顔の前で手を振った。

「それなら、クリエイティビティだ。この課題ではクリエイティビティを見る。視聴者もそのつもりで投票してほしい」

 それから、パンと音を立てて両手を合わせた。

「さあ、グズグズしている暇はないぞ。始めてくれ」

*

 ノブナガは部屋を出ていき、五人の参加者が残された。

「誰のぬいを作る?」

 ルイが、ソウタとダイチに向かって尋ねる。ミツキとユウには背を向けている。このグループ分けになるのは、あらかじめ決まっているというように。
 ノブナガの出ていった扉をじっと見つめていたダイチが、「あ、ああ」と我に返って微笑んだ。ソウタはこちらを気にする素振りを見せつつ、「うーん」と悩ましげな声をあげる。
 ミツキはユウに目を向ける。彼はなにも言わず、うつむきがちに立っていた。けれど、こんなのは不本意に違いない。
 いくら頼まれて出たオーディションとはいえ、ズルをしていると糾弾されて、その誤解を解く機会もじゅうぶん与えられずに、有耶無耶になってしまうなんて……。
 ミツキの息が浅くなる――ユウに助けてもらうばかりじゃダメだ。
 ひとつ、深呼吸をする。

「ルイさん」

 名を呼ぶと、彼はターコイズブルーの髪を揺らし、いぶかしげな顔で振り向く。

「俺と組みませんか?」

 ルイが驚いて目を丸くした。

「……なんで?」
「いや、その……ユウさんが俺のぬいを持ってたことについては、ルイさんの納得のいく説明をするのが難しいんですけど。でもズルをしようとしたわけじゃなくて、俺もこのオーディションに真剣に向き合いたいと思ってるんです。ユウさんだって同じだと思う。それを信じて欲しいから」

 ルイは目を逸らして唇を噛んだ。皮むけひとつない、丁寧にケアされた唇が傷ついてしまうのではないかと心配になる。
 そこに、ソウタが助け舟を出してくれた。

「そしたら俺、ユウくんに俺のぬい作って欲しいかも〜! その場合、ユウくんが俺のぬい作って、俺がダイチさんのぬい作って、ダイチさんがユウくんのぬい作る……で合ってる?」

 ダイチもソウタの言葉にうなずきながら、ルイに言う。

「仮にミツキとユウがきみの言う『チート』をしていたとして、これ以上その恩恵を受けさせないためにも、ふたりを別々のグループにするのがいいんじゃないかな」

 ルイは渋々といった様子で了承する。

「……かわいく作れよ」

 ミツキは自然と笑顔になって応えた。

「がんばる!」

*

「いや、おまえ裁縫できないのかよ!」

 ルイが勢いよくツッコんだ。第一印象はクールなのに、また彼の意外な一面を知ったな、とミツキはズレたことを思った。

「あんま経験がなくて……」

 ミシンの使い方は中学で教わったことがあるはずだが、完全に忘れてしまった。だから手縫いを選んだのに、玉止めのやり方がよくわからなくて、ミツキは苦戦していた。

「推しのぬいが欲しくて手作りしようとしたこともあったけど、そのときは早々に挫折しちゃったんだよな……」

 呆れた顔でルイがミツキを見る。

「あんなに自信ありそうだったくせに。その辺の教科書取ってこいよ」
「……そうします」

 ルイはきちんとイメージ図を描いたうえで、まずは型紙を作っているようだ。ミツキなどは、その発想がなくて適当にフェルトを切り出し、縫い始めてしまったのだが。

「ルイさんは、ちゃんとしてますね。裁縫得意?」
「ボタンつけぐらいしかできねえ」

 こうやって一緒に手を動かしていると、自然と会話が生まれる。そのことにホッとする。

「ボタンつけできるだけですごいですよ」
「んなことないだろ」

 ルイが肩を竦めた。

「代わりにやってくれる人がいなかっただけ。うち、母子家庭で、母親がいつも忙しかったし」
「そうなんですね」

 ルイが手を止めて、こちらをじっと見た。

「え、なんですか?」
「いや……『変なこと訊いてごめん』とか謝ったら、ますます嫌いになろうかと思ってたけど、謝らなかったから」
「はは」

 率直な物言いに思わず声をあげて笑うと、「おまえ、変なとこで図太いよな」とルイも苦笑した。

「……さっき、一般人って呼んでごめん」
「え?」

 聞き返すと、「オレ、『おまえみたいな一般人のぬいがあるのはおかしい』って言っただろ」と返ってくる。

「そういえば、そんなことを言われたような……」
「インフルエンサーなんだもんな」
「いや、まあ……一般人とそんなに変わらないです。特別人気があったわけでもないし、お金をもらうような案件は受けたことがないし」

 推しの真似をして、誰かに元気や勇気を与えたいとVlogを始めた。だけど、これといった特技もなくて、再生数やフォロワー数は伸び悩んでいた。

「でも、今はフォロワー爆増してるってコメントにはあったじゃん」

 ルイがからかうような調子で、プリントアウトされたコメントのひとつを引用する。

「スマホ見れないから、実感ないですけど……」

 一般人と呼ばれても、人気インフルエンサーと示唆されても、やはり不思議と心は動かなかった。

「なんか、こう……この合宿に来てから、あんまフォロワー数とか気にならなくなってきたかも」

 ぼんやりとその理由を考える。これまでの合宿で目にした、ほかの参加者たちの意外な一面が思い浮かぶ。

「TLを眺めてるだけじゃ、その人がどんな人かとか、わかんないことがいっぱいあるんだな、直接話さなきゃなって実感することが多くて……」
「よかったんじゃね」

 ルイは軽い調子で言った。
 よかったのかな、とミツキは戸惑った。そうはいっても、この合宿が終われば、自分は――自分たちは、また、SNSを通して繋がる世界に戻るのに。

「手段が目的になっちゃうと、しんどいもんな」

 ルイは、一学年上の先輩らしい眼差しでこちらを見て微笑み、ミツキの手元に視線を落とす。

「そのまま針を抜く。できたじゃん」

 そのとき、隣の列の長机から大きな笑い声があがった。

「それはさすがに手を抜きすぎでしょ!」
「いや、これがいちばん効率良く綺麗に仕上がるんだ。俺を信じろ」
「でもそれ、綿入らなくない? ぺちゃんこのぬいになっちゃうんじゃない?」

 そちらに目を向けると、ソウタが「ルイくん〜! ユウくんが適当にフェルト切って接着剤でくっつけただけの『俺ぬい』を作ろうとしてる〜!」と泣き真似をする。
 「おまえら雑すぎ」とルイがミツキを指さし、声をあげて笑った。

*

 昼どきになり、みんなで昼食をとろうと作業を中断した。
 進捗はまちまちだった。
 ルイやソウタは、やっと布を切り終えた段階。
 ダイチはミシンで縫いたいけれど使い方がわからないと言って、教科書を見ながらの復習から始めており、実質なにも進んでいない。
 ミツキはちまちま手縫いでぬいぐるみの胴を縫っている。
 ユウは接着剤で端をくっつけたフェルトに綿をつめこもうとして苦戦していた。
 全員で食堂に座り、食べながら話をする。

「ダイチさん、ミシンの使い方わかった?」

 ソウタが尋ねる。ダイチが「直線縫いなら、まあなんとかできるようになったよ」と答える。

「すごいじゃん! ん? でもぬいぐるみって直線だけではできてないよね? 間に合うの……?」
「あとから挽回するよ」

 ダイチがのんびりと答えて、昼食の冷やし中華をすすった。

「なんか最初顔合わせたとき、ダルい感じのヤなやつだなって思ったけどさ」

 ルイが口を開いたと思ったら、歯に衣着せぬ調子で、ミツキは内心ハラハラする。

「ただマイペースなだけなんだな」
「よく言われるよ」
「まあ、たしかに『給料出せ』はちょっと嫌な感じだったよね!」

 アハハ、とソウタも明るく同意した。

「……理想論かもしれないけど」

 ダイチはそこで言葉を切ると、一瞬、食堂に据え付けられたカメラを気にするような素振りを見せた。それから、吹っ切るように首を横に振る。

「俺はさ、努力には正当な報酬があるべきだと思ってるんだ。合宿に参加したのは俺たちの意思だけど、けっこう過酷な環境でしょう。そのうえ、得られる『賞品』が無償労働だなんて、やりがい搾取じゃない?」
「まあ、そうかも……」

 ミツキは曖昧に同意した。ダイチは、その煮えきらなさも受け容れるように微笑んだ。

「俺ならそういうことはしない、って思ったんだ。俺も、人を動かす立場を目指してるからね」

 「ふふふ」とソウタが笑った。

「いいね。俺の作るダイチさんのぬいは、社長っぽさを出していこう」

 「社長っぽさってなんだよ」とルイがツッコむ。

「なんか高そうなスーツ着せる! ストライプの布、たしかあったはず……」
「俺、ストライプは着ないよ」

 騒ぐ三人をよそに、ミツキは言葉少ななユウに目を向けた。ユウは伏し目がちに冷やし中華を食べ進めていたが、わずかに目線を上げてこちらを見返した。
 「俺は、嘘をつかない」――朝食のときに聞いた、彼の言葉の真意が気にかかっていた。
 ぬい化したミツキを持っているところを撮られ、それをごまかすためにした発言は、まったくの嘘ではなかったということだろうか。
 ……たとえば、「ミツキのぬいは、本物によく似てかわいい顔をしている」というのは。
 目だけが大きくて、眉も鼻も唇も細く小さく薄い。繊細そうな顔立ちを、自分では好きじゃなかった。だけど、きちんと磨いて整えれば、美しい部類に入るらしい――というのは、ここ半年ほどで知ったことだ。
 泣き腫らした目について、「本当はそういう顔なの?」と訊かれたのも覚えている。
 つまり、ユウは、俺の顔を以前から「かわいい」と思っていて――だけど、それ以外は嫌いだった? 飼育小屋の前で向けられた、侮蔑の眼差し。
 ふと、「今は?」とユウに訊いてみたくなった。「今は俺のことをどう思ってるんですか?」と、カメラのないところで、彼の本音を。
 ユウは自分を見つめるミツキにいぶかしげに眉をひそめたあと、口いっぱいの冷やし中華を嚥下し、あっかんべえをした。

*

 夕方五時になり、今日の作業は終了になった。
 微調整をしつつ、ミツキの「ルイぬい」は素体が完成した。顔はボタンとビーズを縫い付けて作り、髪はターコイズブルーの毛糸を貼り合わせて作った。

「かわいいはかわいいけど、推し活のぬいっていうより~」
「海外のパンクおばあちゃんが作ったぬいぐるみみたいだな」
「すげえ具体的な例え」
「ほっこりするけど髪以外も謎に色合いがビビッドだね」

 口々に腐されて、ミツキはユウのぬいぐるみを指さした。

「ユウさんのよりはマシだろ!」
「はあ?」

 ユウは不服そうな声をあげるが、「まあ」とみんなはうなずく。

「でも、顔のフェルトがゆるキャラぽくてかわいいよね」
「綿を詰められるように構造を考え直したのも偉かったな」
「マチが作られて箱みたいになってますけど……?」
「ロボとしての俺みたいな〜」
「あ、それいいな。そういうことにする」

 ユウ本人としては、これでもう素体完成らしい。ルイとソウタも同様に素体を完成させている。唯一、ダイチだけが顔を刺繍するという凝りようで、素体はまだ立体になっていない。

「でも、明日ミシンを使えばあっという間に縫えるはず。服もミシンなら楽だしね」
 
 ダイチはのんびりと言った。

「そんじゃ、明日はかわいいお洋服を作って、ぬいを完成させましょー!」

 ソウタの掛け声に「おー……」とまばらに答えて、そのあまりのバラバラさにみんなで笑って、合宿三日目の撮影が終わった。

*

 風呂から部屋に戻ると、ユウは二段ベッドの上段に寝転がって、図書室から取ってきた古い雑誌を退屈そうに眺めていた。十年以上前のゲーム雑誌だ。小学生のころ、よく遊んでいたタイトルの特集が組まれている。

「俺も、そのゲーム好き!」
「へえ」
「リメイク版出たの知ってます? 推しがプレイしてて、俺、それがきっかけでその人の配信見始めて……」

 でも段々、プレイの合間に語られる何気ない話や、笑い声の明るさに惹かれるようになって。他の配信も見るようになって。そうしたら彼の歌声が本当にかっこよくって、どんどん好きになって、憧れて……。
 ハッとした。またユウにとってはどうでもいい話をしてしまった。「すみません」と謝ると、「別に」とユウはそっけない。
 けれど、二段ベッドを降りてきて、板間に腰を下ろした。会話を続けてくれるみたいだ。うれしくなる。

「そういえば、ユウさんの『ソウタぬい』、ちょっとだけそのゲームのキャラに似てますね」
「あー……そんなつもりはなかったけど、そう言われればそうかもな。影響受けたか」
「かわいい」

 ユウは呆れたように笑った。

「『こいつのよりはマシ』とか言ってたくせに?」
「あれは、『ぬい』として見たときのクオリティの話で……かわいいと思います、本当に」

 ミツキもユウの隣に腰を下ろした。ユウは、今度はちょっと照れたように笑った。

「ソウタとかルイのも、なんだかんだどんぐりの背比べだろ」
「まあ……ダイチさんのだけ、レベルが違う」
「俺は、自分の裁縫スキルと持ち時間を考えて最適解を選んだつもりだったけど……ああいうやり方もあるんだな」
「ですねえ」

 同じ課題でも、考えることもやり方も全然違う。おもしろいな、としみじみする。
 それから、ユウを盗み見た。今なら訊けるかもしれない。俺のことをどう思ってる? と。

「ユウさん。今日も、俺の秘密を隠し通してくれてありがとうございました」
「ん? ああ……まあ……」

 ユウは遠くに視線をやって、あぐらを組みなおした。

「俺だけじゃなくて、おまえもがんばってたし」
「なんか、ユウさんが俺のファンだってことになっちゃったけど……」
「それは別に……いや、めんどくさいはめんどくさいけど、まあ……」

 なんだか歯切れが悪い。いつもハッキリ物を言うユウにはめずらしいことだ。
 つられて、ミツキもなんだかもごもごしてしまう。

「あの……お昼のとき、『俺は嘘をつかない』って言ってましたよね」
「ああ、そう自分に約束してんの。ちょっと前から」
「……俺のファンっていうのは、嘘じゃないんですか?」

 ユウが顔をしかめて、こちらを向いた。

「なに? 俺を責めてんの?」
「いやっ、違うけど! ほら、初日に話したとき、俺、ユウさんに嫌われてるんだなーって思って。でも、そのあと親切にしてくれるし、かと思ったら意地悪もするし、でも『かわいい顔』とか言うし、よくわかんなくて……」

 ユウの眉間のしわがほどける。ちょっと驚いたような表情になって、じんわり頬が赤くなった……気がする。ミツキの見間違いかもしれない。ユウはなにも言ってくれない。

「よくわかんなくて……」

 気まずくなって、ただ小さな声で繰り返した。ユウは、観念したようにため息をついて言った。

「……俺、おまえのフォロワーだよ」
「えっ!? 嘘!?」
「だから、嘘はつかないって」
「いや、すみません、信じられないって意味……」

 だって、全然そんな素振りを見せなかった。ミツキの心の声が聞こえたかのように、ユウはあっけらかんとうなずいた。

「うん。まあ、ファンじゃないしな」
「ええ……?」

 ファンじゃないのに、フォロワーなのか? 首をかしげると、ユウは幼い子どもにするように苦笑した。

「顔はかわいいなと思ってたけど、投稿内容にはムカついてた。薄っぺらいな、偽物っぽいなって。……昔の俺を見てるみたいだって」
「……」

 並べられたひどい形容詞よりも、最後に言ったことが気になった。じっと見つめるけれど、ユウはごまかすように肩を竦めた。

「実際に会って、なんでそう感じてたのかがわかった。おまえが自分を偽ってたからだ。……まあ、顔だけはアプリで盛ってたわけじゃなくてよかったよ」

 冗談めかして、失礼なことを言う。だけどやっぱり、腹が立ったりはしなかった。言われたことに自分でも自覚があったからだけれど、それ以上に語り口がなんだか憎めなかった。
 こちらもふざけてわざと睨むと、ユウは不思議そうな顔をした。

「男に『かわいい顔』って言われて、キモくないの?」
「え? それは別に。誉め言葉ですよね? うれしいけど」

 「ふうん」とユウはつぶやいて、じっとミツキの瞳を覗きこんだ。

「好みだ、って言ってるんだけど」
「あ、え? そういう……」

 そういうことか。少しドキッとしたけど、やっぱりうれしかった。

「ありがとうございます」

 照れ笑いを浮かべながら言うと、ユウは目の下に皺を作った。不機嫌そうだ。まるで予想外の反応に苛立っているみたいに……気持ち悪がって、拒絶してほしいみたいに。

「俺、ゲイなんだよ」

 ユウが吐き捨てるように付け加えた。

「あ、そっか……」

 男の顔を「好み」だというからには、そういう場合もあるだろう。特に驚かなかったけれど、こういうときになんて応えればいいのかもわからなかった。「教えてくれてありがとう」? それとも……。
 ミツキのぼんやりとした反応に、ユウはますます苛立ったように言い募る。

「おまえ、全然わかってないな。それとも、あのときみたいに、またいい子ぶってんの? ゲイの俺がおまえを好みだっていうのはさ、おまえみたいな顔の男と付き合って、エロいことしたいって意味なんだけど」
「……なんで、わざわざそんな意地悪な言い方するんですか?」

 ミツキには不思議だった。拒絶されることを恐れているみたいなのに、拒絶されないことに苛立っているユウのことが、よくわからない。
 「チッ」とユウは舌打ちをして、それから意地の悪い笑みを浮かべた。これまで見たような、意地悪ではあっても、どこかにいたずらっぽさの残る笑顔とは違った。
 嫌な予感がして、ミツキは腰を浮かそうとした。

「俺、そろそろ寝る……」
「なあ」

 ユウがその腕を掴んだ。ミツキは床に引き戻される。

「今日一日考えてたんだけど。おまえがぬいになるきっかけ、俺、わかっちゃったかも」



【配信コメント】
ノブナガさんこわぁ
ダイチとノブナガ理屈っぽいとこは似てる
ミツキくんとルイくん普通に話せてる~!
ルイくんめっちゃ笑うじゃん
給料は払うべき
男子高校生のわちゃわちゃてぇてぇ
あっかんべえ…
あっかんべえ…
ユウのぬい四角くて草
ダイチだけ本気すぎるw