ここまで来たらな、運命なんだよ〜苦手なお隣の天才医師と、エナジー吸血鬼になったあたし〜

 黒岩(くろいわ)春時(しゅんじ)に見つめられ、なぜか身体の力がどんどん抜けていく。

 黒水晶のような彼の瞳には、底知れない魅力と恐怖というものが同時に存在している。

 ……気のせいだよね。さっき滑り込んだ時に頭でも打ったかな……それにしても、眩暈がすごい。

「はい、わんちゃんです……」

 あたしは意識がぼんやりする中で春時に子犬を差し出す。

「メロン~、本当に良かったねぇ」

 春時が子犬を受け取って、ぎゅっと愛おしげに抱きしめた。

 ……よかった、本当に。こんな徳を積む行為をしたんだから、今日はきっといいことがあるはずよ。

「……君とは運命を感じるよ」

 春時があたしに微笑みかけてきた。真っ白な肌に薄いくちびるが印象的。

「……う、運命?」

 首をかしげると、ふたりの間に強い風が吹いた。 

 春時の一つに束ねた長い髪が舞い上がる──

 ザワザワと街路樹が嫌な音を立てた。

「あ、指を怪我してしまったんだね」

 春時の視線があたしの人差し指に留まる。

 あたしもそれを見て、人差し指に目線を落とした。

 ほんとだ。さっきアスファルトで擦りむいたかな……?

「あ、たいした怪我じゃないんで……」

 その言葉に反応するかのように春時があたしの指をつかんだ。

 えっ……、な、なに?

「だめだよ。女の子なんだから大切にしなきゃ……ね?」

 彼が視線を絡めてきた。

 あたしの全身からさらに力が抜けていく。

「あ、あの本当に大丈夫なんで、これくらい舐めておけば治りますから」

「ふ~ん。舐めておけば治るんだ」

 春時の白いストールがふわっと揺れた。

 次の瞬間、「ぱくっ」と音がした。

「はっ?」

 あたしの肩がビクッと上下した。

 なんと春時はあたしの人差し指を口に含んでいた。

 彼の舌が傷口に触れる。滑らかで柔らかいものがあたしの指を包み込む。

「や、やめてください……! なにしてるんですか」

 な、なんなんだ、こいつは……! 完全にイカれた野郎だ。

「雪乃~、大丈夫か~!?」

 春時の突飛な行動に動きを封じられたあたしの背後から、龍太郎の声がした。

「あっ、龍太郎」

 振り返ると彼がすぐそこまで来ていた。

「ちっ──」

 春時が軽く舌打ちした。

「えっ……」

 あたしが再び春時のほうを向くと、彼はとんでもない行動をとった。

 かぷっ──

 なんと舐めるのをやめて、あたしの人差し指を軽く噛んだ。

「な、なにするの……!」

 擦りむいた膝が震える。鼓動が速くなる。

 この男は冗談抜きで危険だ。

「は、離してよっ」

 あたしは噛まれたほうの手を動かし、春時から引き離した。

「……僕はどうやら花嫁を見つけたらしい。君の霊力(エナジー)は最高だった」

 恍惚とした表情になる春時。

 げっ! 怖すぎ……。

 ゆっくりと一歩一歩後ろに下がる。

 目の前のヤバいやつを刺激しないように、慎重になるあたし。

 だ、大ピンチ!