君と幸せなサヨナラをしよう。

『お月様きれいだね』

『うん。満月は嫌いだけど』

『どうして?』

『……なんか眠れなくて』

『ふふっ、なんか狼みたいだね』

『抱き枕の刑ね』

『きゃーっ、なんで〜』


君の部屋の窓から見えたまあるい月。

ぼやけた輪郭が、ふたりを包むベッドのシーツを青白く照らしていた秋の夜。

そんな睦言を交わした甘い夜の記憶が馳せた。



「鈴木さーん、次1208号室までー」


大部屋の外から職員の呼び掛けにハッとして頭を振る。
急いで配膳コンテナに戻って言われた通り食事を運ぶ。

だめだ、仕事に集中しなきゃ。

この病棟という空間のどこかに君がいるせいで、どうしても意識してしまう。


チラ、と腕時計を見る。
もうすぐ退勤時刻。早く帰りたいな。


「はあ……」


小さなため息を漏らすと疲れがどっと押し寄せた。