「さすがだね」
そう言って彼女のキャラメル色の頭頂部をくしゃくしゃにかき回そうと手をのばしかけて、静止。
彼女に触れるのは、もう辞めよう。
「……虫飛んでる」
「ふぇっ、やだやだ」
「いなくなったよ」
ふう、と安心して口をとがらせる彼女がどうしても可愛い。
嗚呼、愛おしい。
愛おしいからこそ、泣きたくなる。
もう、俺はお前を守れない。
お前の未来を、守れない。
だから、早く、離さなければ。
もっと強く、永く、お前の未来に寄り添える誰かのもとへ、放さなければ。
俺はもうお前とは生きていけないと、話さなければ。
そう思っても、重い口を開くのは容易ではなかった。
その日の帰り道、もうすぐ駅に着きそうなところで急に雨が降った。
バケツをひっくり返したような土砂降りは、彼女の必需品の晴れ雨兼用おりたたみ傘では心許ない降水量だった。
