君と幸せなサヨナラをしよう。

恋に落ちるのはいつだって一瞬だ。


業務連絡の受話器から出る低い声で、くすぐられる耳朶。

すれ違いざまに肩が当たっただけで、高鳴る心臓。

書類を受け取るときに一瞬だけ、触れる指先。


ぜんぶがあたしのこころを震わせた。



先輩が誰にでも優しく、気遣い上手で仕事熱心なことはひしひしと感じている。

けれどそれ以上に、さりげない仕草や息遣い、もはや存在そのものにあたしの視線は奪われてしまう。


でも、先輩のこころはあたしを向いていない。

先輩が見つめる先にいるのはいつも、すずちゃんだ。



くっついてほしいなんて1ミリも思ってない。

がんばれなんて騙し文句だ。

自分のこころを隠すために盛り上げておいて、自分で勝手にこころの傷を彫り上げているだけ。


「あたしこそ、なにやってるんだろほんと……」


言葉が虚しく落ちてゆく。

それをすくい上げるように上を向く。

どこまでも続く暗い空はどんより濃鼠の雲で覆われている。