うむ。なるほど。

モデッツ先生が来て、十日ほど経った頃。
何やら王宮内が忙しなくなってきた。新年祭とやらが行われるらしい。

「本日は、新年祭の準備でバタバタしておりますので、鍛錬場はお休みです」

以前から言われていたが、改めて言われると残念だ。
毎日、朝ご飯後に動くのが習慣になってしまっていたから、ジッとしているのが気持ち悪い。

「散歩しても良いか?」

ハイハイしていた時には、よく彼方此方(あちこち)を探検したものだ。
メフィスレスとアイッシェンを連れて、久しぶりに歩き回ろう。
そう思って、確認程度に聞いたら、ダメだと言われた。

「本日は、新年祭の準備でバタバタしておりますので、外出は禁止です」

ビックリした。さっきと同じ台詞だから、壊れたレコードかと思ったわ。
どうやら、今日から三日間は部屋からあまり出ないでジッとしておけという事らしい。
なんて子供に優しくない環境だろうか。外の空気を吸うのは大事な事だろうに。
なんて、ちょっと愚痴ったら、バルコニーを示された。
確かに、外の空気は吸えますね。後で出るよ。

って言うか、そんな大事なお祭りがあるんだったら、俺も何かしら準備があるのでは?
とか思ったけど、まだ四歳の王子には関係ないとの事だ。
この国では、王子の存在は十歳まで大々的に発表しない決まりなんだってさ。
王宮に出入りする人たちは知っているけど、発表はしない。

市井(しせい)の人達も噂くらいになら存在を知っているけど、ちゃんと自分の意志で物事を判断できる年になってからお披露目となるのだ。
俺はもう、ちゃんと自分の意志で物事を判断できるけどな。
って言うか、転生前の記憶が無かったら、十歳なんてまだそんなちゃんとしている年齢じゃないだろうに。王族ってのは大変だね。

という訳で、新年祭に俺の出番はない。

まぁ、それは致し方ない事として納得しよう。
ただ、俺が納得できないのは、ユハには出番があるという事だ。
なんだ、お前は俺の専属侍従(せんぞくじじゅう)とかじゃないのか?

俺のご飯タイムにのみ現れて、ユハは他の時間は騎士予備科の演習とやらの練習で出掛けて行ってしまったのだ。信じられない。

初日はまだ良かった。
朝ご飯後に、『所用を片付けてまいります』とか言って出て行って、昼前に帰ってきた。
これはまだいい。そういう事もあるだろうと思っていた。
その後に『断れない演習があって祭りまで度々出かける』と謝ってきた。
それもまぁ、仕方がない事だと納得しよう。

ただ、その後からが問題だ。
俺の夕ご飯前に帰ってきたユハは、汗だくで息も整わない感じだったのだ。
辛うじて夕ご飯までに身奇麗(みぎれい)になって、いつも通りに配膳してくれたが。
翌朝はもう、俺が起きる前から一っ風呂(ひとっぷろ)浴びてきましたって感じだった。
そして、その日の昼からは、ユハの代わりにギンナン少年が来るようになった。

ギンナン少年は、とてもたどたどしく頑張ってくれた。
それに文句は言うまいよ。
ただ、俺は非常に不満です。

あれだけ、俺の飯の準備は自分の仕事だって拘っていたユハ少年は何処へ行ったんだ。