うむ。なるほど。

まぁ、とにかく。
椅子を並べてもらって、その上にルビーラが設置された。
因みに、椅子の向きは俺のイメージとは違い、向かい合わせ(・・・・・・)になる形だ。
背もたれが向こうに並ぶ感じをイメージしていたんだが、左右に背もたれが来る感じ。
そして、向こう側には楽譜台が置かれている。楽譜は無いけど。

確かに。
向こうに背もたれが並ぶより、左右でがっちり固定(こてい)されているこの形は安定感がある。
やはり、ユハは有能だ。

「ありがとう。じゃあ、弾いてみるね。もし、煩かったら、止めてね」

迷惑なワガママ坊やにはなりたくないんで、ちゃんと教えてね。
という気持ちで言ったんだけど。
ユハが煩いからという理由で止めてくれるとは思えないな。
うっすらと、ユハは俺至上主義な気がする。

まぁ、メフィスレスが止めてくれるだろう。多分。
という事で。
背筋(せすじ)を伸ばして、手から力を抜いて。
親指と人差し指だけで持って、後は添えるだけ。

右手から。ド。
左手で、ミ。
交互に、ソミラソミ。
そして、レソミレミ。

昨日、勝手にポンポン叩いていた時より、良い音が出ていると思う。
さっき練習したのとは全然違って、めちゃくちゃ小さい音だけど。
くぐもって小さい音だけど。でも、良い音は出ている、はずだ。

「とてもお上手でございます」

乳母の一人が声をかけてくれた。
良かった~。なんか、ユハが促したような気配もあった気がするけど。
でも、良かった。

「このくらいの音だったら、迷惑にならないかな?」

カツィも特に嫌そうな感じではない。
むしろ、こっちを気にしてジッと見ているような気がする。目は合わないけど。
そう言えば、楽器を紹介してくれた楽団員の彼が、『赤ん坊は高い音をポコポコ鳴らすのを気に入る可能性が高い』とか言っていた。

「カツィ様もとても気に入られたようですよ」

乳母達も微笑ましそうにそう言ってくれるので、今度はオクターブ高い所で弾いてみる。
右側の、音板(おんばん)が短い所に移動して、同じ二小節(ワンフレーズ)を弾いてみる。

「ルイーナ様、カツィ様がお笑いなりましたわ」

弾き終わった直後に、乳母が興奮したように報告してくる。
笑うのって珍しいんだろうか。
振り返った時にはもう、さっきまでと同じようにボーっとした顔をしているんだが。

「産まれたばかりの赤ん坊は、一瞬だけ笑うんです。とてもお可愛らしい笑顔でしたわ」

聞いたことあるな。新生児微笑(しんせいじびしょう)ってやつか。
もう一回弾いてみたら、もう一回笑うかな?
と思って同じように弾いてみたけど、もう見る事は出来なかった。
と言うか、そのまま気持ち良さそうに眠ってしまった。

まぁ。
安眠(あんみん)妨害(ぼうがい)しなかったのなら良いか。
ちょっとした達成感(たっせいかん)と共に、俺はカツィの部屋を後にするのだった。