うむ。なるほど。

それから、俺も部屋で寝た。爆睡した。
言うても俺はまだ四歳。お昼寝だってするし夜もしっかり眠る、よく寝る子だ。
多分、ぐんぐん育つと思う。

翌日、目が覚めて落ち着いてから赤ん坊を見に行ったら、まだ寝てた。

「ずっと寝てるの?」

抱っこしている乳母に聞いたら、今寝た所ですよと小声で教えてくれた。
確かに、既に疲労感が漂っている。もう何度も起きててんやわんやだったのだろう。
部屋の中では、他の乳母らしき人が禍々(まがまが)しい色の排泄物を片付けている。

しかし、赤ん坊というのは何と言うかその、汚いな。
昨日湯につけて洗っていたと思ったが、髪はまだ血が付いてるんじゃないかという感じでへたっているし、身体のあちこちに白いベタベタしたものが付着している。
手の先とかも、何か、紫色してるし、ちゃんと生きてるのか?

「うぎゃ……ふぇ」

まじまじと観察していたら、唐突に動いて、動いたことに自分で驚いたのか泣き始めた。
まだ目が開いたところを見たことが無いので、これで見えるかと覗き込んでみたが、目は閉じたままに見える。まぶたが腫れぼった過ぎではないか?
それほど目が覚めた訳じゃないのか、泣き声は一瞬で治まって、また眠り始めた。

あまり乳母の邪魔をする訳にはいかないので、すぐに自室に戻った。

「ユハ、赤ん坊って、いい匂いするって聞いた事あるんだが。なんか、臭くなかったか?」

どうしても気になったので、部屋に戻ってユハに聞いてみたら、そういうものらしい。
昨日は血が溢れていたから、血の匂いばかりしていても不思議に思わなかったが、何か、脂っぽいと言うか、焦げ臭いと言うか。とにかく、満腹の時には嗅ぎたくない匂いだった。

「いい匂いでしたよ。焼きたてのパンのような。美味しそうな匂いでした」

匂いに対する感想は、人それぞれであるらしい。
まぁ、新生児どころか、赤ん坊すらあまり抱いた事ないからな。
本物の赤ん坊というのは、前世を合わせても初めて見た。

それから数週間。
俺は驚きの連続だ。
まず、思った以上に泣いてる。
ずっと泣いてる。

まぁ、数人の乳母が代わる代わる世話してくれるみたいだから、睡眠不足の問題は無いんだろうけど。
俺がたまに様子を見に行こうとすると、部屋の扉が閉まっているにも拘らず、廊下のだいぶ先から泣き声が聞こえるほどだ。
聞いたところ、2時間周期で起きて泣くらしい。

しかもその泣くというのも、うぇ~んとかじゃない。ギャーだ。
部屋の中で聞いた時には、耳の奥まで響き渡って信じられないほど煩い。
鼓膜の破壊を目的としているとしか思えないほどの攻撃力だ。

あと、ミルクの匂いというのがよく分かった。
赤ん坊は、上手く吸えないから、いっぱい零れるし、よく吐き戻す。
だから、ミルク(まみ)れになっているというのもあるだろう。
正直、数分同じ空間にいたら、臭くて吐き気を催すほどに臭かった。
これを、いい匂いというのは親だからか?大人だからか?全く理解できん。

しかも、吸うのが下手なので、乳母の乳首にガッツリ噛みついていた。
歯も無いのに物凄い力で吸い付くから、乳母の胸からは血まで出ていた。
なんか、戦争だわこりゃ。
これ、母親が一人でとか絶対無理なやつ。マジで信じられない。
嘘でしょ。赤ん坊、恐るべし。

俺は、しばらく、赤ん坊の部屋に近付かないようにしようと決意した。
別に、逃げる訳じゃないぞ。
俺は赤ん坊を可愛がることができる男だ。
ただ、ただな。
子供には勉強が必要だからな。