うむ。なるほど。

そんなこんなで。
とりあえず大人しく勉強を続けていたある日。

「そう言えば、ムレって子供産んだの?全然話題にならないけど」

異母兄弟には教えてくれない感じかな?
ふと不思議に思ってユハに尋ねたら、ユハの顔が悩まし気になった。

「どうやら、なかなか産まれなくて困っているようですよ。実は、一昨日から陣痛が始まったそうですが、あまり痛みも強くならず、長引いてしまっているようです」

微弱陣痛(びじゃくじんつう)というやつだろう。ストレスが強すぎるのだ。
俺でさえムレの予定日を大まかには意識しているのに、ミームはここ最近、ずっと離宮に籠っていて、王宮に帰って来ることさえしていない。
どうも、リルの悪阻が酷いようなのだが、だからと言って、たまには他の人のことも考えるべきだと思う。
リリシアだって、あまり顔には出さないけど、ちょいちょい気持ち悪そうにしてるし。

「俺、ムレの出産に立ち会う」

普通は許されないと思うけど、ここは王子の特権だ。
ユハも特に反対しないので、俺は堂々とムレの部屋に乱入することにした。
俺の魔力がムレや赤ん坊に影響を与えてしまってはいけないので、細心の注意を払って浄化魔法で消毒する。ついでに、ユハとメフィスレスとアイッシェンも消毒完了。

部屋の中では、ムレと周囲の医師達がどうにか産まれるようにと頑張っていた。

「部屋を暖めろ!腰や足を温めるんだ!」
「お湯をもっと持ってこい!」
「下腹部にも布を当てて!」

医師達の指示が飛び交う中、ムレも懸命に(いき)もうとしていた。
ストレスがかかっていても、大丈夫だ。ムレはちゃんと産もうとしている。
それもそうだろう。ミームが見向きもしないと言っても、腹に居るのは王子か王女。王族に違いない。何より、自分の子だ。母親になるのに、絶望なんてしてる場合じゃないよな。
俺は、何とかその混乱を()(くぐ)って、ムレに近付いた。

「ムレ、これを飲んで、胸をマッサージしてみて。陣痛が始まるはずだから」

ムレは、一瞬迷いはしたが、何も言わずに俺の差し出した(うつわ)を飲み干し、俺の言うとおりに胸をマッサージする。
器の中身は、おやつ用に異空間収納していた果汁だ。体力が少しでも回復するだろう。
胸を揉むと、オキシトシンが分泌されて、陣痛が促されるはず。
少しでもムレの体力が持っている間に陣痛が進めばいいが。

これでダメなら、足湯で三陰交(さんいんこう)でも押すか、歩かせるか。
そう思っていたら、ムレを強い陣痛が襲った。
何とかなりそうだ。良かった。

ムレが何度も叫び声を上げながらも頑張って(いき)み続けた結果、ちゃんと赤ちゃんの頭が見えてきた。
ゆっくりと、確実に赤ん坊が外に出てきた。

「産まれます!」

誰かの叫びと共に、赤ん坊が取り上げられ、真っ白なタオルで包まれる。
感動だ。
これはまさに、赤ん坊というにふさわしい。
なんて、真っ赤なんだ。

「……魔力が」

誰かの呟く声が、赤ん坊の泣き叫ぶ声にかき消される。
あ~、そう言えば、俺が産まれる時って、めちゃくちゃ痛くて暴れ回ったな。
懐かしく思いながら赤ん坊を見ると、小さな手を懸命に動かそうとしている。
きっと、めちゃくちゃ痛くて暴れて泣き叫んでるんだろうな。
ムレも赤ん坊も、よく頑張ったもんだ。

別に自分は何もしてないのに、非常に達成感がある。
小さな赤ん坊が、ぐったりしたムレの胸元に連れて行かれて、ムレに抱くよう差し出される。

だが、ムレはその赤ん坊を抱きはしなかった。

「どうして!いや!そんな子、私の子供じゃないわ!」

ムレは、泣き叫んで赤ん坊を叩き落とす勢いで振り払ったのだ。
慌てて渡そうとしていた侍女が抱き締めて、赤ん坊は無事だったが。
さっきまで、ちゃんと産もうとしていたのに。何があったんだ?

全く理解できないでいたら、いつの間にか足元にいたアイッシェンが呟いた。

不味(まず)そうだにゃ」