うむ。なるほど。

四歳になった俺は、本格的に始まった勉強で右往左往していた。
四歳の誕生日は誰にも祝われなかったのに、俺が四歳になったことは皆知っていた。当たり前ではあるが。何故祝わない。第一王子だぞ。
誕生日のプレゼントは、家庭教師でしたってか。

家庭教師は何と、妊娠が発覚した直後のリリシアだ。
彼女もまた、妊娠発覚後に王宮に部屋が用意された。どうも、王の子を妊娠すると王宮に部屋が用意されるらしい。

そして、せっかく王宮に居るのなら、俺に字を教えてくれるという。
彼女は文書の清書を担当する事もあるほど、字が上手らしい。
産まれた直後から言葉を理解していた俺にとって、字の勉強など簡単。
そう、舐めていたのだが……

「ルイーナ様、横棒が一本多くなってますよ。縦の棒も、少し長すぎかと」

字って、綺麗に書くの難しいんです。特に、まだ思うように動かない指では。
あと、突き抜けるか突き抜けないかだけじゃなくて、長さによって意味が変わるらしいのだ。
漢字のように、単語ごとに文字が変わって、覚えることが多すぎる。

あと、文語(ぶんご)口語(こうご)と全然違う。
文脈によって同じ言葉でも表現が違うとかもあるらしい。
確かに、古文とかでも相手がどういう人かによって尊敬語のレベルも変わったりしてたもんな。覚えることを考えると辛過ぎるが、理解はできる。


そんな勉強にヒーヒー言ってたら、ユハが帰ってきた。
俺が産まれた時にめちゃくちゃ構ってくれたペトの五男だ。
俺より十歳上なんだけど、今までは騎士訓練科とか言う所で訓練していたらしい。
今年からは、騎士予備科という所に進級したので、俺の世話係をしながら通うらしい。

今まで、俺には特にお世話係がいなかった。
風呂とかは、ペトが入れてくれることもあったけど、自分で出来るアピールをした一歳頃から、風呂場には居るけど見守るだけにしてくれるようになった。
ご飯は自分で食べるし、着替えも自分でする。

トイレトレーニングなんて俺がする訳もなく。……おねしょは何度かしたが。
こういう成長は仕方ない。脳の発達具合で出来るようになるものを、最初からできるはずもないのだ。
感知できない緊急事態を察知することなんて出来ない。仕方がないのだ。俺は悪くない。
……とにかく、俺にはお世話係が必要なかったのだ。
護衛も召喚獣二人で十分だし。

そんな環境だったから、いきなり他人が毎朝毎晩同じ部屋に居るのは鬱陶しいなと思ったのだが。意外や意外、特に何も困らなかった。
ユハはやはり非常に使える人間だ。
用が無い時は気配を全く感じないし、俺が視線を向けると直ぐに気づく。
大抵の場合は、視線を向ければすぐに察して欲しい答えをくれたり、欲しいものを取って来てくれる。分からない時は分からないという顔をして待っているからお願いしやすいし。
何なら、視線を向ける前に準備してくれている時もある。有能秘書だ。

メフィスレスとアイッシェンも、ユハのことを便利な小間使い扱いしている。
どこどこの菓子が美味かったからまた持ってこいとか。ブラッシングの所望とか。寝床のクッションを硬いものに交換しろとか。
アイッシェンなんて、ボールを持って行って構えとか言ってる時がある。
ユハは嫌な顔一つせずに全ての要求に応えていた。

「ルイーナ様、これは我が国の歴史を簡単な言葉で(まと)めた本です。参考になればと思って、持って来ました」

流石は、有能秘書だ。