うむ。なるほど。

それから、三年の月日が経った。

ミームは、頑張っていた。……と思う。
リルを愛していると表現し続け、後宮へも義務を果たしに行く。俺の事もずっと可愛がって、構い続けてくれた。仕事上でも周囲に気を配っていた。
だが、すり減らし続けた心力は、目に見える形として表れ始めていた。
――魔力の減少だ。

その日は、壁に掛けられた蝋燭に火をつけることすら出来なかった様だ。いつもなら造作もないはずなのに。
だが、それを周囲に気取(けど)られまいと、俺に火をつける仕事を任せようと言い出した。俺が代わりにつけると、ミームは俺を絶賛してその場をごまかす。
もう、限界が近付いている事は、ミーム自身が一番よく分かっていたと思う。

リルは、俺を常に側に置きたがった。
ミームが後宮から帰って来ると、しばらく口も利かなくなるのに、後宮に行く日の前夜には、決まってミームの寝室を訪れる。引き留めたがっているのだろう。でも、それがミームの仕事なのだ。

ミームも、俺に色んな魔力の使い方を教えてくれた。
だが、俺を見る度に、どこか辛そうな表情をするのだ。
心力は、治癒魔法では回復できない。今の俺には精々、頬擦り位しかしてやれなかった。

俺はこの三年で、色々な事を学び、考えた。
魔力を外に垂れ流さず、完璧に隠すことも出来るようになった。
だから、ミームにお願いして後宮に連れて行ってもらったのだ。
後宮には男女合わせて二十人ほどがいて、誰も彼もが美人だった。

魔力譲渡のための後宮とはいえ、ここにいるのはミームの妃にと望まれた高位貴族の娘たちでもある。魔力を分け与えて終わり、という訳でもないようだ。
リルの不安と嫉妬は、正しい。
それでも、俺はミームが羨ましいとは思えなかった。
目的が魔力譲渡じゃなかったとしても、ミームが喜び勇んで後宮に出入りしているようには、とても見えなかったからだ。

でも、俺個人にとって、この後宮は最高峰のハーレム(らくえん)に違いなかった。
なんとか無事に魔力を抑え込めた俺にとって、代わる代わる美人さんに抱き上げてもらえるなんて、楽園以外の何物でもない。
その中には、あのラエリアさんもいた。
ラエリアさんは、自信に満ち溢れた迫力美人であるにも関わらず、意外にも慎ましやかな胸をしていた。――「自信に満ち溢れた美人は胸が大きい」と思い込んでいたことを謝罪したい。

ラエリアさんは、初対面の印象とは違ってとても優しかった。
気軽に挨拶をしてくれて、俺の隠蔽魔法を褒めてくれた。

「この後宮に、膨大な魔力を垂れ流された時はどうしてくれようかと思いましたが……これだけ綺麗に魔力を抑えられるなら、心配はいりませんね。殿下の御世(みよ)も安泰ですね」

にこやかだが、美人の皮を被った猛獣といった感じだ。
いや、後宮の人間はみんな、猛獣だ。

ミームが溺愛する息子を可愛がることによって、間接的に自分もアピールしたい――という狙いか、飢えた猛獣たちは一斉に俺に群がってきた。
キャッキャとはしゃぎながら、水面下で互いを牽制(けんせい)して俺に手を伸ばす大人たち。
正直、恐ろしい思いもしたが、怖かっただけかと言われればそうではない。
愛する男の庇護を必死に獲得しようとするその泥臭い行為を、俺は醜いとは思わない。

それに、もし俺が彼女たちの心力を強くすることが出来たら、ミームの負担を減らせるかもしれない。

かくしてここに、後宮の美しい猛獣たちを侍らす三歳児が爆誕した。