うむ。なるほど。

それから、俺は頑張った。
アイッシェンが言っていた、魔力を外に漏らさないための修行だ。

今までの俺は、ただ生きているだけで魔力を外に垂れ流していた。
アイッシェンやメフィスレス曰く、魔力を垂れ流さない人間を見たことはあるけれど、その具体的なやり方は知らないという。
誰かにコツを聞きたかったのだが、喃語では伝えられない。

俺は、前世以来のイメトレでどうにかするしかなかった。
ただ、いくらイメージを重ねたところで、本当に出来ているかどうかを確認できなければ意味がない。
もう一度ミームにくっついて行って、魔力板(スレート)を失敬する事にした。
また後宮を騒がすことになってしまうが、まあ、俺の将来の為だ。もう一度くらい我慢して貰おう。

と思って、ミームに近付いたのだが。

ピッピッピッピッピ ピッピッピッピッピ

俺がミームに接近しただけで、なにやら小さな警戒音が鳴った。

「おや。可愛いルイーナ。私と遊びたくて来たのかな? すまないな。明日には後宮へ行かなくてはならないから、今日は遊んでやれないんだよ」

隠蔽魔法で見えないので、ミームは俺がいるのとは真逆の方向に向かってしゃがみ込み、虚空に話しかけている。
どうやら、ミームは近づく魔力に反応する「何か」を持っているらしい。
――これは好都合だ。
こちらから何も伝えなくても、勝手に俺の魔力を検出してくれる。有り難く利用させてもらおう。

その日から、魔力を消すイメージをしながら、何度も何度もミームに近付いては警戒音を鳴らす日々が始まった。
ミームが「今日は(ルイーナ)と遊ぶ日」と決めている時は、音が鳴らなかったりもする。
そういう日はそういう日で、ミームを癒してやってもいいと思った。
それくらい、ミームは後宮通いで疲労を溜め込んでいたのだ。

しかも、ついにはリルとの会話にまで、違和感を覚えるようになってしまった。

ミームがデレデレしているのは通常運転だ。リルとイチャラブなのもいつも通り。
でも、ミームが週に二日ほど後宮に通うようになってしばらくしてから、リルが俺の事を不自然なほど口にするようになった。

「ルイーナはパパの事が本当に大好きね」
「ルイーナはいつもパパと一緒にいたいみたいね」
「パパがいないとルイーナは寂しそうね」

俺があまりにミームに内緒で近づいていくから、勘違いしているのかと初めは思っていた。
だが、余りにこういった言葉を繰り返すので、気付いてしまった。
リルは、子供を(かすがい)にして、後宮に通う(ミーム)を引き止めようとしているのだ。

実は、この方法が一番の悪手だと俺は思う。
向けられる言葉のせいで、家族と一緒にいる時間が「歓び」から「義務」へと変質していってしまうのだ。
それまで、本当に心から楽しいと思えた家族の逢瀬(おうせ)が、義務づけられた仕事に変わっていく。

前世であれほど心理学を学んだというのに、俺には今、何一つしてやれることがない。
「本音で話し合え」と言ったところで、お互いの本音など分かり切っているだろう。
分かり切っていても、許されない状況がここにある。俺に出来ることは何も無いのだ。

ミームは後宮に通っていても、変わらず俺を愛してくれていた。もちろん、リルの事も愛していた。
リルだって、後宮で魔力を分け与えることが王族の仕事だと理解はしているはずだ。それでも、感情が納得しきれないものがあるのも分かる。
ただただ、ミームが疲れ果てていくだけの日々が続いた。