うむ。なるほど。

「散れ」

美人さんの(りん)とした一言で、俺の身体を取り巻いていた隠蔽魔法という魔力が飛散した。
特に抵抗する気はなかったが、渾身の隠蔽魔法をあっさりはぎ取られ、一瞬にして丸裸にされた気がして怖い。なんか恥ずかしい。

「おぉ、可愛いルイーナ。隠蔽魔法まで使えるのか! 本当に天才だな。しかも、隠れてパパと一緒にいたかったのか? 可愛い奴め!」

丸裸にされた途端にミームに抱き上げられて、頬擦りされまくった。
美人さんに魔力を払われて心許なかった俺の周りの空気が、頬擦りされる度にミームの魔力に包まれている気がした。不本意ではあるが、安心する。
美人さんが凛とし過ぎて怖かった反動で、俺からもミームに擦り寄ってしまった。
それが嬉しかったのか、ミームもいつも以上にベタベタグリグリしてくる。

「陛下、魔力玉(オーブ)が反応したのはその赤子の魔力でしょう。私が魔力を払ってすら、この赤子は魔力に包まれております。後宮の魔力玉(オーブ)は常にこの赤子に反応します。今後、後宮に渡られる前日は、この赤子と触れ合うのは自重(じちょう)してください。私であればこの力も払えますが、後宮の者たちでは太刀打ちできないでしょう。この力は、(みな)(さわ)ります」

とんでもない事を言ってくれるではないか。俺が、後宮のおにゃの子達の迷惑になると。
非常に心外である。俺はおにゃの子を愛し、愛される存在ぞ。

「仕方にゃ~な。おみぇ~の魔力は俺達には御馳走(ごちそう)ににゃるが、魔力の乏しい人間のおにゃごには毒だにゃ。親族か、()()()()をしてにゃい以上、完全に魔力を出さにゃいようにしにゃい限り、おみゃ~さんがおにゃごに会うことは出来にゃいにゃ」

裏切り者は、すぐ横にいた。
アイッシェンは、メフィスレスほどではないが博識だ。謎に人間の事情に明るい。
だが、そんな言葉を黙って信じる訳がない。こんな美人を前にして、抱き上げもしてもらえないなど、言語道断(ごんごどうだん)だ。俺は無害だ。

「そうだな。分かってはいるんだが、どうしてもルイーナに触れたくて、何度も渡りそびれてしまった。本当に、お前たちには済まないと思っている。だが、これからはちゃんとするよ。血の契約をした以上、俺には義務がある。迷惑をかけた。今日は、もうルイーナに触れてしまった。明後日、また来るという事で良いだろうか」

ミームは、俺とは違って真剣な顔をしていた。
何か、愛人に会いたくて来ている感じじゃない。義務なんて、失礼すぎる。
美人さんも、ちょっと寂しそうな顔をしている。おにゃの子を悲しませるなんて、ミームはバカだ。おにゃの子は、いつも大切に守るべき相手なのに。おかしい。

「陛下、今宵は私の所にお泊まりいただけませんでしょうか。私の力であれば、陛下の周りからその赤子の力を消すことも出来ましょう。それに、私は他の方々ほど、影響を受けません。明日には、他の方々にもお会いいただきたいのです。もはや、後宮の不満は限界でございます」

美人さんは入って来た時と同じくらい頭を下げて懇願(こんがん)した。
部屋の中にいた騎士達も頭を下げている。
後宮って、何か、思っていたのと違う。
ハーレムって、幸せな夢の場所なんだと思っていたのに。

ミームは、俺を近くの騎士に任せ、美人の腰に手を添えて部屋を出て行った。
これから、イイ事するんだろうに。
何だか、ちっとも羨ましくない。
俺は、初めてミームに同情した。