うむ。なるほど。

これが転生というものか。

ザーザーと血液の流れる音。
ドッカンドッカンと鼓動する響き。
ギュルギュルと唸る腹の虫。
水の中で話すように、曖昧に響く人の声。

どうやら、これが母体の中というものらしい。
目はまだ見えていない。だが、手や足の感触は徐々に出来てきた。音が聞こえるということは、耳の機能も完成しつつある。時々、無意識のうちに口から液体を摂取しているので、口もあるのだろう。飲み込んでいる感覚もあるし、排泄も行っていると見える。
何となくの感覚で、手や足をふらふらと動かしてみるが、まだ母の腹には届かない。外の音に耳を澄ます限り、母はひどい悪阻に悩まされているようだ。申し訳ないが、いましばらくはなんとか耐えていただきたい。

しばらくは、ふわふわと浮きながら、ただ羊水を飲むだけの日々を満喫していた。
そんな、ある日。
母が悪阻で苦しんでいると思しき時に、何となく労わりを込めて胎内で手を広げてみた。
すると、手のひらから「何か」が外へと抜けていった気がした。
最初は気のせいだと思ったのだが、とりあえず何度か繰り返してみた。気持ち悪いの無くなれ~との思いを込めて。すると驚いたことに、その度に母親が元気になった気がした。

これは、もしや治癒魔法か?!
剣と魔法の世界に、俺は本当に生まれ変わったのか?!
ビバ!!
異世界転生など、俺の妄想かと思いきや、ガチだったとは!

異世界転移の天命は無くとも、俺には異世界転生の運命が待っていたのだ。

そうなれば、もう遠慮はいらない。
念願叶った俺を止める者など居やしない。いや、居てはならない。
悪阻の気配がするたびに労わりを込めて力を送り、悪阻が治まってからも、愛情と感謝を込めて力を送り続けた。
しばらくすると、母は力を送らずとも悪阻に悩まされなくなった。時期が終わったのだろう。

しかし、俺は休まず力を送り続けた。
何となく寒そうな時には、ポカポカするイメージで。
何となく暑そうな時には、涼しくなるイメージで。
とにかく、前世で重ねたイメトレ通りに力を送り続けた。

なにせ。
「初期段階から力を使い続けることが、魔力の器をデカくする」
異世界のテンプレだからな。