うむ。なるほど。

「犬くせぇ」

さっきまでにゃんにゃん言っていたのが嘘のように、その声は低く、それはもう低く響いた。
正直、めっちゃ怖いです。

「犬くせぇ。犬くせぇ。でも、この魔力は好みすぎる。でも犬くせぇ。でも、でも……あ~!」

語尾に「にゃ」を付けるのを忘れてるにゃ。
どうやらこのちっちゃいにゃんこは、俺の魔力が美味いから契約したいという気持ちと、俺に染み付いたメフィスレスの臭いが嫌だから契約したくないという気持ちの狭間(はざま)で、激しく葛藤(かっとう)しているらしい。
その証拠に、身体は木と建物の間を凄まじいスピードで行ったり来たりしている。

「お前はまた、何をしているかと思えば」

面白くなってじっと見ていたら、突然、すぐ後ろから低い声で話しかけられた。
メフィスレスのお出ましである。
怒っているというよりは完全に呆れかえっているようで、俺としてはちょっとホッとした。
メフィスレスって普段は穏やかだけど、怒らせたら怖そうだし。

「よりによって、あのバカを召喚するとはな」

どうやらメフィスレスは、今も目の前でウロチョロしているにゃんことお知り合いらしい。
メフィスレスの存在に全く気付かずにウロウロし続けるにゃんこの動線上にスタンバイしたかと思ったら、にゃんこが来た瞬間にその脇腹を思いっきり蹴り上げた。

「キャインッ!」

ワンちゃんが不意打ちを喰らった時のような悲鳴を上げて、にゃんこは垂直に飛び上がって、飛び上がって……。
物凄い高度(こうど)までかっ飛んでいった。控えめに言っても、四階の屋根より高かったと思う。
にゃんこは、しばらく時間がかかってからようやく地面に降りてきた。

「れ、レスの旦那?! え~!嘘だろ~! おいら、レスの旦那の契約主に呼ばれちゃったんスか? 衝撃ッスね! ってか、レスの旦那と契約してるのに他の奴を呼び出すなんて、よっぽど魔力に自信があるんスね、あの赤ん坊! おいら、犬臭くても我慢できるッス! 旦那の後輩になるんなら余裕ッスよ!」

にゃんこはメフィスレスを認識するやいなや、蹴られた事には何の文句も言わず、クルクルとその場で高速回転しながら叫び倒した。
それから、器用にウインクなんてかましながら、メフィスレスの横をスッと駆け抜けた。
メフィスレスは「ちょ、待て」とか言っていたけれど、言われたところで「待て」が出来るようなタイプでないことは、今会ったばかりの俺でも分かる。
にゃんこは、駆け寄ってきた勢いのまま、俺の頬をベロっと舐めた。

「おいらはアイッシェン! レスの旦那より魔力喰らいだから、これからよろしくお願いするッスよ!」