うむ。なるほど。

騎士団の訓練場は、男らしい声が響き渡り、ムワッとした熱気が伝わってくる。
既に空気が熱いなと、訓練場の入り口でポケっと座って見ていたら、一際ガタイのいい厳ついおっさんがこっちへ歩いてきた。

リャンではない。リャンよりも焼けていて、デカく、そして怖い顔をした男だ。
しかも、そいつは俺を見るなり片手でヒョイと摘み上げた。そう、摘み上げたのだ。
親指と人差し指を俺の小さな腹に回して、軽々と。
いくら赤ん坊と言っても、俺の身体もそれなりに成長している。八キロ、いや月齢(げつれい)を考えると九キロ近くはあるはずだ。なのに、片手でヒョイだ。
俺の国の騎士団の筋肉(フィジカル)は、なかなか期待できそうだな。
ちょっと怯えながらもポカンとおっさんを見上げていたら、向こうからリャンが走ってきた。めちゃくちゃ慌てた顔をしている。

「綺麗な赤子だな。お前、一体どこから(かどわ)かされて来たんだ?」

リャンがこちらに到達する前に、おっさんに話しかけられた。
何だよ。めちゃくちゃ怖い顔をしているくせに、ビックリするほど優しげな声じゃねぇか。
俺は、一瞬にしてそのおっさんが好きになった。これがギャップ萌えって奴か。
だから、ちょっとした気まぐれで、おっさんの――おそらく機能していないであろう左目にそっと力を送ってみた。
折角の綺麗な緑色の目なんだから、俺に両目を見せてくれよ、という気持ちを込めて。

おっさんは、驚きのあまり完全に固まっていたが、どうやら左目の視力が戻ったようだ。
さっきまで右目だけで捉えていた俺の姿を、今ははっきりと両目で見つめてきている。
おっさんが彫刻のように固まっている間にリャンが滑り込んできて、大慌てで俺を抱き上げてくれた。
だが、リャンもおっさんの顔を見た瞬間に、同じように硬直(こうちょく)した。

「だ、団長、目が……!」

それからは、城内がひっくり返るほどの大騒ぎだったのだが、結論として、俺は団長さんとやらにめちゃくちゃ好かれた。相思相愛ってやつですな。
聞けば団長さんは、俺が産まれる十年ほど前の戦で左目を失う代わりに、敵兵を五万と倒したらしい。
それは何というかまぁ、生きる時代を間違えたらただの危ない人殺し系の英雄だな。
で、その潰れた左目を「英雄の象徴」として崇める人がたくさん居たらしいんだが、団長自身はそれがあまり好きじゃなかったんだと。

『英雄の象徴なんかじゃねぇ。これは、人殺しの象徴だ』

ってさ。
まあ、騎士団長なんて立場に居る以上は、仕方が無いのだろうけれど……。
どうやら団長は、俺の大好きなタイプの「守るべきものを守る強者」だったらしい。

出産の時に母親に使って以来、初めての治癒魔法だったが、有意義に使えて良かった。