うむ。なるほど。

ある日、タオルを弄っていたら身体が前に倒れた。咄嗟(とっさ)に手で支えてみたら、自分がハイハイの体勢を取っていることに気付いた。これはもう、行くしかない。
メフィスレスの毛並みを整えていたユハを目指して、いざハイハイを開始したが、ほんの少し進んだだけで腕が疲れてしまった。
クソ、赤ん坊の筋力め。疲れたらお座りして、またハイハイして、疲れたらお座りして、またハイハイして、と何度か繰り返すうちに、ようやくユハの元へと到達した。

心地良い達成感に浸りながらユハの膝をペチペチとタップしたら、ユハが飛び上がるほど驚いてリルとミームを呼びに行ってしまったので、俺はちょっと御不満である。
そこはまず俺を抱っこして褒め称えるところだろ。
致し方ないので、ユハが綺麗に整えたばかりのメフィスレスのモフモフを、心のままにクシャクシャに乱してやった。
メフィスレスは呆れたような顔をしながらも、黙ってそれを受け入れていた。いい奴だ。

ユハが大人たちを連れて息を切らせて戻って来たので、そちらに向かってもう一回ハイハイで進んでみせた。
大人たちは、それを見た瞬間、踊り出すかと思うほどはしゃぎ始めた。
いつもは悠々と微笑んでいるペトまでが、「今日はお赤飯ですね!」とか言い始める始末だ。
その日の晩は、本当に赤飯が出てきた。異世界にも赤飯ってあるもんなんだな。
俺のべちゃべちゃの離乳食も、ほんのり赤く色づいて赤飯風だった。味はいつも通りだったが。

思いの外ハイハイのウケが良かったので、調子に乗った俺はハイハイをしまくった。
部屋の中だけでは飽き足らず、廊下に出て別の部屋に侵入した。
ある時は、客間のような場所で見知らぬお爺さんの足を掴んで悲鳴を上げさせ。
ある時は、図書室のような場所で届く範囲の本を引き摺り出して司書を困らせ。
ある時は、衣裳部屋のような場所で、かかっている衣装で鼻水を拭いて侍女に嘆かれた。

そして、最終的には人に見られないようにコソコソと城の外まで這い出るようになった。
残念ながら、背後をメフィスレスが律儀(りちぎ)に付いて回っているので、全くコソコソ出来てはいなかったが。

どこに行っても、遭遇した色んな大人たちが「殿下?!」と驚愕(きょうがく)するので非常に気分が良い。
だが、やはり俺が王子だからか、みんな咄嗟に手を出して抱き上げることもできず、ただハラハラしながら見送るだけだ。
それはそれで何かツマラン。そう思った俺は、さらに外へ出て、あの騎士団の訓練場へ向かうことにした。
メフィスレスが『それは流石に怒られるから止めておけ』とか言ってる気がするけれど、もちろん無視だ。

ちなみに、外でハイハイしても痛くないように、膝や手にはふわりと空気を纏わせている。
空気のクッションを間に挟んでいるようなイメージだ。