「怒らせたって、なにをしたの。ぴよちゃんはいったい」
「……や、なにをしたっていうほどのことでも」
「あいつ、沸点低そうな顔してるけど。ご存じのとおり、あれでいて気が長いというか、悟ってるというか。昔から滅多に怒らないんだけど」
完全に呆れ切った――ついでに面白がってもいる顔でにやにやと笑われて、日和は唇を尖らせた。というか、なんで、俺、この人にこんなことを話しているのだろう。そもそもとして、なんでこの人と職場が一緒になったんだ。まぁ、羽山さんは毎日いるわけじゃないけど。
――いや、いいんだけど。ちょっとどうかなと思わなくもないけど、俺じゃどうにもならない部分をカバーしてもらってるんだと思えば。
半分以上おのれに言い聞かせる様相ではあったが、とりあえず日和はそう思うことにした。その勢いのまま経緯を話して聞かせる。ここまで来ればもう自棄でしかない。
それに、本気で自分がなにをしたのかわからないから、困っているのだ。
話し終えた日和に、羽山は目も当てられないとばかりに苦く首を振った。そして一言。
「あのね。ぴよちゃん。それは怒ってるんじゃなくて、照れてるんだわ」
「照れ……」
「ぴよちゃんの目にあいつがどう映ってるのかは、知りたくもないからいいんだけどね。あいつも、もう二十代も半ばのいい大人の男なんだから。きみみたいなキラキラした子から、そんなこと言われたら、居心地悪いでしょ」
「だって」
だって、そう思ったんですもん、とは。さすがに主張はしづらかった。口ごもった日和に、羽山が生ぬるいとしか表現のできない笑みを浮かべる。
「あのね、ぴよちゃん。世の中には主観と客観というものがあってね」
「……知ってますけど」
「みんながみんな、きみと同じ世界が見えてるわけじゃないんだから。つまり、きみ、恋に浮かれすぎ。盲目すぎ。そろそろ付き合って一年経つんじゃないの。あいつのどこがそこまでいいのか、俺が教えてほしいくらい」
立て食う虫も好き好きとまで言ったら、基生に悪いような気はするけど。きみが心配するほど、あいつはモテないってば。たまに、きみみたいな変なやつに、やたら好かれるっていうだけで。
つらつらとしたそれが居た堪れず、日和は話を遮った。
「羽山さん」
「なにかな、ぴよちゃん」
「もし、俺と同じようなことを生徒が相談しに来たらどうするんですか」
「そりゃ、聞き役に徹して諭してあげるに決まってるじゃない。まぁ、いまどきの中学生の子のほうが、もう少し擦れてるとは思うけどねぇ。そんなんだから、いまだにきみのこと猫かわいがりしてるのかね、あいつは」
首を傾げた日和に、羽山がしたり顔で続ける。
「だから、破れ鍋に綴じ蓋ってことだよ。きみもあいつも」
「……や、なにをしたっていうほどのことでも」
「あいつ、沸点低そうな顔してるけど。ご存じのとおり、あれでいて気が長いというか、悟ってるというか。昔から滅多に怒らないんだけど」
完全に呆れ切った――ついでに面白がってもいる顔でにやにやと笑われて、日和は唇を尖らせた。というか、なんで、俺、この人にこんなことを話しているのだろう。そもそもとして、なんでこの人と職場が一緒になったんだ。まぁ、羽山さんは毎日いるわけじゃないけど。
――いや、いいんだけど。ちょっとどうかなと思わなくもないけど、俺じゃどうにもならない部分をカバーしてもらってるんだと思えば。
半分以上おのれに言い聞かせる様相ではあったが、とりあえず日和はそう思うことにした。その勢いのまま経緯を話して聞かせる。ここまで来ればもう自棄でしかない。
それに、本気で自分がなにをしたのかわからないから、困っているのだ。
話し終えた日和に、羽山は目も当てられないとばかりに苦く首を振った。そして一言。
「あのね。ぴよちゃん。それは怒ってるんじゃなくて、照れてるんだわ」
「照れ……」
「ぴよちゃんの目にあいつがどう映ってるのかは、知りたくもないからいいんだけどね。あいつも、もう二十代も半ばのいい大人の男なんだから。きみみたいなキラキラした子から、そんなこと言われたら、居心地悪いでしょ」
「だって」
だって、そう思ったんですもん、とは。さすがに主張はしづらかった。口ごもった日和に、羽山が生ぬるいとしか表現のできない笑みを浮かべる。
「あのね、ぴよちゃん。世の中には主観と客観というものがあってね」
「……知ってますけど」
「みんながみんな、きみと同じ世界が見えてるわけじゃないんだから。つまり、きみ、恋に浮かれすぎ。盲目すぎ。そろそろ付き合って一年経つんじゃないの。あいつのどこがそこまでいいのか、俺が教えてほしいくらい」
立て食う虫も好き好きとまで言ったら、基生に悪いような気はするけど。きみが心配するほど、あいつはモテないってば。たまに、きみみたいな変なやつに、やたら好かれるっていうだけで。
つらつらとしたそれが居た堪れず、日和は話を遮った。
「羽山さん」
「なにかな、ぴよちゃん」
「もし、俺と同じようなことを生徒が相談しに来たらどうするんですか」
「そりゃ、聞き役に徹して諭してあげるに決まってるじゃない。まぁ、いまどきの中学生の子のほうが、もう少し擦れてるとは思うけどねぇ。そんなんだから、いまだにきみのこと猫かわいがりしてるのかね、あいつは」
首を傾げた日和に、羽山がしたり顔で続ける。
「だから、破れ鍋に綴じ蓋ってことだよ。きみもあいつも」



