「いやー、それは我儘だろ、我儘」
「……そうだとは思う、けど」
「というか。あれだけ塩見さんのこと嫌がってたくせに、結局、年上の経験豊富な人捕まえてんじゃん。どう違ったわけ? 優しいの、その人は」
「いや、まぁ……、うん。そうかな」
なんでこんな話になったかなと思いつつ、日和は果実酒の水割りに口をつけた。
ゼミの新年会に顔を出したことで義務は果たしたと二次会の誘いを断ったのが、小一時間前のこと。そのまま帰るつもりだったのに、なぜか水原に捕まってしまったのだ。
日和に余所余所しかった塩見の態度が気にかかったのだと心配顔で口にされると、相談に乗ってもらった手前、無下にもできず。仕切り直すことにしたのだが。
塩見にはきちんと断っていると知ってほっとしたらしい水原は、年上の人と付き合い始めたという話になると、ひたすらに楽しそうだった。こいつ、人の恋愛話、好きだよな、と思う。
「優しくて、面倒くさがりのおまえを、文句も言わずにリードしてくれてるんだろ。なんていうか、話聞いてると、すごいおまえにぴったりな感じだよな」
「いや、……うん、まぁ、そうかも」
「認めるのかよ。幸せいっぱいか」
にやにやと笑ったまま、水原が続ける。
「おまけに彼女がマグロだっていうなら、それはそれで同情するけど。その逆なんだろ? いいじゃん、いいじゃん。エロゲやAVじゃあるまいし、えっちな処女なんて存在しないんだから。だったら、マグロな処女より、経験豊富なえっちなお姉さまのほうがいいだろ」
「うん」
いや、でも、そういうことでもなくて。こぼれそうになった反論を呑み込んで、日和は頷いた。そんなこと、言えるわけもない。
「そういや、話、変わるけど」
「ん?」
「水原さ、俺にあれだけ真木さんに言うなって釘刺したくせに、自分は羽山さんに言っただろ」
ふたりになったついでに問い詰めると、水原はわかりやすく目を泳がせた。
「いや、だって……。つい、気になっちゃって。ごめんって」
「べつにいいけど。変に俺のこと言ってないよね?」
つぼみの新年会でのやりとりが、片隅にしこりとなって残っていたせいか、ほんの少し責める調子になる。
ただのお友達にしては仲が良いよな、だとか。同い年のはずなのに、あの保護者然とした態度はなんなのか、だとか。いろいろと考えてしまうのだ。
「言ってはないけど。あ、でも、どこで知ったっていう話の流れで、日和の名前は出したかも」
「かも、じゃねぇだろ。先週、ボランティア先でも新年会あって、そのときにちょっと聞いた」
「なんだ。ならよかった。基生さんは? なんか言ってた?」
「いや」
面倒になるから言わない。羽山はたしかにそう言っていた。その事実を告げる気にはなれなくて、首を横に振る。
「特にはなにも」
「そっか。あの人、ちゃんと基生さんに伝えてくれたのかな。ひさしぶりに会いたいってみんな言ってるんだよね。揉めたっていうのも、十年近くは言い過ぎにしても五年以上は前の話なんだし。いまさらじゃんって」
「いまさらとか、そういうのは」
口を出すつもりなんてなかったのに、思わず口走ってしまった。
「本人が決めることだろ」
「おまえ、最近、切れやすくない?」
「……酔った」
戸惑いをにじませた問いかけに、グラスに視線を落とす。さすがにこの程度では酔わないけれど、そういうことにしておきたかったのだ。
居場所がない。そう、いとも簡単に口にしたあの人は、地元にも待っている誰かがいると知れば、どんな顔をするのだろうか。
――いや、でも、俺が無神経に顔を突っ込むことじゃないよな。
もし、万が一。話してくれることがあれば、どんな話でも聞きたいけれど。
女が好きな男の言う「好き」なんて信じられるかと、あの人は言った。それで痛い目を見るのはいつもこっちだとも言っていた。
そうやって、傷をつけられたことがあるのだろうか。誰かと身体を繋いだことはあるのだろうか。気にすべきではないとわかっていることが、ときたまこうして胸を焼く。どこにも吐き出しようのない毒を、日和はアルコールと一緒に呑み込んだ。
「……そうだとは思う、けど」
「というか。あれだけ塩見さんのこと嫌がってたくせに、結局、年上の経験豊富な人捕まえてんじゃん。どう違ったわけ? 優しいの、その人は」
「いや、まぁ……、うん。そうかな」
なんでこんな話になったかなと思いつつ、日和は果実酒の水割りに口をつけた。
ゼミの新年会に顔を出したことで義務は果たしたと二次会の誘いを断ったのが、小一時間前のこと。そのまま帰るつもりだったのに、なぜか水原に捕まってしまったのだ。
日和に余所余所しかった塩見の態度が気にかかったのだと心配顔で口にされると、相談に乗ってもらった手前、無下にもできず。仕切り直すことにしたのだが。
塩見にはきちんと断っていると知ってほっとしたらしい水原は、年上の人と付き合い始めたという話になると、ひたすらに楽しそうだった。こいつ、人の恋愛話、好きだよな、と思う。
「優しくて、面倒くさがりのおまえを、文句も言わずにリードしてくれてるんだろ。なんていうか、話聞いてると、すごいおまえにぴったりな感じだよな」
「いや、……うん、まぁ、そうかも」
「認めるのかよ。幸せいっぱいか」
にやにやと笑ったまま、水原が続ける。
「おまけに彼女がマグロだっていうなら、それはそれで同情するけど。その逆なんだろ? いいじゃん、いいじゃん。エロゲやAVじゃあるまいし、えっちな処女なんて存在しないんだから。だったら、マグロな処女より、経験豊富なえっちなお姉さまのほうがいいだろ」
「うん」
いや、でも、そういうことでもなくて。こぼれそうになった反論を呑み込んで、日和は頷いた。そんなこと、言えるわけもない。
「そういや、話、変わるけど」
「ん?」
「水原さ、俺にあれだけ真木さんに言うなって釘刺したくせに、自分は羽山さんに言っただろ」
ふたりになったついでに問い詰めると、水原はわかりやすく目を泳がせた。
「いや、だって……。つい、気になっちゃって。ごめんって」
「べつにいいけど。変に俺のこと言ってないよね?」
つぼみの新年会でのやりとりが、片隅にしこりとなって残っていたせいか、ほんの少し責める調子になる。
ただのお友達にしては仲が良いよな、だとか。同い年のはずなのに、あの保護者然とした態度はなんなのか、だとか。いろいろと考えてしまうのだ。
「言ってはないけど。あ、でも、どこで知ったっていう話の流れで、日和の名前は出したかも」
「かも、じゃねぇだろ。先週、ボランティア先でも新年会あって、そのときにちょっと聞いた」
「なんだ。ならよかった。基生さんは? なんか言ってた?」
「いや」
面倒になるから言わない。羽山はたしかにそう言っていた。その事実を告げる気にはなれなくて、首を横に振る。
「特にはなにも」
「そっか。あの人、ちゃんと基生さんに伝えてくれたのかな。ひさしぶりに会いたいってみんな言ってるんだよね。揉めたっていうのも、十年近くは言い過ぎにしても五年以上は前の話なんだし。いまさらじゃんって」
「いまさらとか、そういうのは」
口を出すつもりなんてなかったのに、思わず口走ってしまった。
「本人が決めることだろ」
「おまえ、最近、切れやすくない?」
「……酔った」
戸惑いをにじませた問いかけに、グラスに視線を落とす。さすがにこの程度では酔わないけれど、そういうことにしておきたかったのだ。
居場所がない。そう、いとも簡単に口にしたあの人は、地元にも待っている誰かがいると知れば、どんな顔をするのだろうか。
――いや、でも、俺が無神経に顔を突っ込むことじゃないよな。
もし、万が一。話してくれることがあれば、どんな話でも聞きたいけれど。
女が好きな男の言う「好き」なんて信じられるかと、あの人は言った。それで痛い目を見るのはいつもこっちだとも言っていた。
そうやって、傷をつけられたことがあるのだろうか。誰かと身体を繋いだことはあるのだろうか。気にすべきではないとわかっていることが、ときたまこうして胸を焼く。どこにも吐き出しようのない毒を、日和はアルコールと一緒に呑み込んだ。



