「え? 俺? べつにどこにも帰ってないけど。というか、バイトしてたし」
「そうだよねー、まきちゃん。田舎に帰らないもんね」
地元銘菓とともにつぼみにやってきた日和を出迎えたのは、心なしかキャンプで黒くなった子どもたちと真木だった。いつもどおりの光景にほっとしたのも束の間、到着時間がギリギリだった事実が、チクチクと罪悪感を刺激する。
――いや、ふたりきりになるのを避けたわけじゃない……と思いたい。
もはや、心の中ですら「ない」と言い切れていない。自分のある種の素直さを恨みつつも、どうぞとお土産を手渡した。受け取った凛音が、無邪気に紙袋を覗き込んでいる。
どこにでもある、というか、全国津々浦々ほんの少し名称が違うだけの類似品が混在しているただの饅頭なのだが、喜んでもらえるならなによりである。
勉強が終わったら食べようと生徒たちが盛り上がっているところで、真木さんは帰らなかったんですか、と尋ねたのは、ちょっとした好奇心だった。
「というか、まきちゃんの実家って、どこだっけ。和くんと一緒なんだっけ」
続いた恵麻の台詞に、日和は密かに耳を大きくした。知りたいと思うのは人情だ。恋心と表現したほうが正確かもしれないが、それはさておく。
「んー、田舎。なにもないようなところ。同じ県内だけど、こことは大違いだな」
「そんなに? ちょっと行ってみたいかも。まきちゃんは帰りたくなったりしないの?」
「この年になると、帰るのは正月くらいでいいかなって思うようになるの」
「あれ? でも、今年のお正月もまきちゃん帰ってなくない? 警備員さんのバイトしてたって、優海さんが言ってたような」
ほんのわずかだけ言い淀むように苦笑してから、真木が応じた。
「よく覚えてるな、そんなこと」
「あたし、記憶力良いんだー。すごいでしょ」
「すごい、すごい。その記憶力活かして勉強してこい、勉強」
ほら、と自分を指されて、日和はワンテンポ遅れて頷いた。
「そうだね。じゃあ、始めようか。紺くんたちも」
少し離れたところでゲームをしていた少年たちにも声をかける。率先して勉強部屋に足を向けながら、日和は内心でひっそりと首を傾げていた。
――なんか、真木さん。地元の話をえらく嫌がってたような。
だが、思い返してみれば、愛実も言っていた気がする。羽山も真木も昔の話は口にはしない、と。それに。
――なんて言ってたっけ。あのとき。
はじめてふたりで帰った、あの夜道。羽山と地元が一緒だと言っていた真木は。
――誰も知り合いのいないだろう大学を選んだってのに、あいつがいて。
いや、とそこで日和は考えることをやめた。誰にだって、触れられたくない部分はあるだろう。この人は、きっといつも輪の中心にいる。ヒエラルキー上位の人種。そんなふうに漠然と思っていたけれど。
――帰らない、のかな。それとも、帰れない、のかな。
考えないでおこうと決めたはずなのに、そんなことを思ってしまった。半月前のお盆の祖父の家での光景が頭に浮かぶ。帰省を喜んでくれる家族に親戚。自分は恵まれている。感謝を抱くと同時に、でも、とも日和は思った。
それは、彼らの望む道のただ中に自分がいるからだ。
「そうだよねー、まきちゃん。田舎に帰らないもんね」
地元銘菓とともにつぼみにやってきた日和を出迎えたのは、心なしかキャンプで黒くなった子どもたちと真木だった。いつもどおりの光景にほっとしたのも束の間、到着時間がギリギリだった事実が、チクチクと罪悪感を刺激する。
――いや、ふたりきりになるのを避けたわけじゃない……と思いたい。
もはや、心の中ですら「ない」と言い切れていない。自分のある種の素直さを恨みつつも、どうぞとお土産を手渡した。受け取った凛音が、無邪気に紙袋を覗き込んでいる。
どこにでもある、というか、全国津々浦々ほんの少し名称が違うだけの類似品が混在しているただの饅頭なのだが、喜んでもらえるならなによりである。
勉強が終わったら食べようと生徒たちが盛り上がっているところで、真木さんは帰らなかったんですか、と尋ねたのは、ちょっとした好奇心だった。
「というか、まきちゃんの実家って、どこだっけ。和くんと一緒なんだっけ」
続いた恵麻の台詞に、日和は密かに耳を大きくした。知りたいと思うのは人情だ。恋心と表現したほうが正確かもしれないが、それはさておく。
「んー、田舎。なにもないようなところ。同じ県内だけど、こことは大違いだな」
「そんなに? ちょっと行ってみたいかも。まきちゃんは帰りたくなったりしないの?」
「この年になると、帰るのは正月くらいでいいかなって思うようになるの」
「あれ? でも、今年のお正月もまきちゃん帰ってなくない? 警備員さんのバイトしてたって、優海さんが言ってたような」
ほんのわずかだけ言い淀むように苦笑してから、真木が応じた。
「よく覚えてるな、そんなこと」
「あたし、記憶力良いんだー。すごいでしょ」
「すごい、すごい。その記憶力活かして勉強してこい、勉強」
ほら、と自分を指されて、日和はワンテンポ遅れて頷いた。
「そうだね。じゃあ、始めようか。紺くんたちも」
少し離れたところでゲームをしていた少年たちにも声をかける。率先して勉強部屋に足を向けながら、日和は内心でひっそりと首を傾げていた。
――なんか、真木さん。地元の話をえらく嫌がってたような。
だが、思い返してみれば、愛実も言っていた気がする。羽山も真木も昔の話は口にはしない、と。それに。
――なんて言ってたっけ。あのとき。
はじめてふたりで帰った、あの夜道。羽山と地元が一緒だと言っていた真木は。
――誰も知り合いのいないだろう大学を選んだってのに、あいつがいて。
いや、とそこで日和は考えることをやめた。誰にだって、触れられたくない部分はあるだろう。この人は、きっといつも輪の中心にいる。ヒエラルキー上位の人種。そんなふうに漠然と思っていたけれど。
――帰らない、のかな。それとも、帰れない、のかな。
考えないでおこうと決めたはずなのに、そんなことを思ってしまった。半月前のお盆の祖父の家での光景が頭に浮かぶ。帰省を喜んでくれる家族に親戚。自分は恵まれている。感謝を抱くと同時に、でも、とも日和は思った。
それは、彼らの望む道のただ中に自分がいるからだ。



