私はまた海に戻ってきて、着くなり裸足で明人と座っていた場所まで走る。
確証は無い。けど、海って書き残すぐらいなら絶対何かあるはず。
走る先にコルクが小さく見えて、スピードを徐々に弱めて膝をついて、コルクの場所を掘り起こすと、長めの瓶が顔を出す。
「これ……別荘にあった……」
中身を取り出して紙を広げると、明人のであろう文字で手紙が書かれていた。
『千夏へ。
これを読んでいるということは、僕は千夏の隣にいないんだね。
短い時間だったけど、千夏に出会えてよかった。
何も知らない僕にいろいろと恵んでくれた。教えてくれた。優しくしてくれた。
千夏と出会ったのは、海を見たいと強く願った結果だと思ってる。僕は、千夏と出会った時には出撃命令が出ていたんだ。特攻隊として。
最初は行きたくなかった。けれど、千夏の笑顔を見て、護りたいと思った。優しく、可愛く笑う千夏の笑顔を。
過ごした時間は短かった。けれど、僕は確かに君に惚れていた。一目惚れだった。
千夏、僕は逝くよ。千夏と、千夏を愛する人たちを護るために。僕に、愛を教えてくれてありがとう。
最後に言わせて欲しい。僕が千夏の隣にいたことは夢じゃない。あの曲、僕は好きになったよ。
じゃあね、千夏。あ、プレゼントも受け取ってね?
……愛してる』
「うっ……う……。明人……」
さっきの資料館で、水野明人 享年19歳と書かれていた。予想通り、私より年上だった。
せめて……せめて、さよならくらい言わせて欲しかった。
でも、そうしたら私はきっと、離れられなくなる。明人はきっと、明人もきっとそうだったから。だから、何も言わずに逝ってしまったんだ。
瓶の中にはもう一枚あって、多分それがプレゼントなんだろう。
瓶に入っていたから丸まってはいるけど、開くと、海を眺める私の後ろ姿が描かれていた。しかも、全身。
あの時だ。あの時、明人が描いていたものは、これだったんだ……。
「めちゃくちゃ、上手じゃん……」
私は涙を抑えることができず、咲希の頼ってという言葉を思い出して、咲希に電話をかける。
「もしもし!?千夏!?」
「……咲希、来て。海」
「……分かった」
私はイヤホンを耳につけて、明人が好きになったという曲をリピートで流す。
明人は私を変えてくれた。私に、愛を教えてくれた。
愛は一体何なのか。
それはきっと、人によって違うのかもしれない。
「………千夏!!」
何回リピートしたか分からないところで、咲希の大きな声が微かに聞こえた。
イヤホンを外してゆっくり振り返ると、急いできてくれたのか、咲希は肩で息をしている。
私は咲希の元に一直線に走り出し、勢いよく抱きついた。
咲希は何も聞くことなく、抱きしめ返してくれて、優しく背中をさすってくれている。
「私……私ね、出逢ったの。昨日、ここで」
「うん」
「その人は、、もう、いない……けど。でも、その人の手紙が、埋まっ…てて」
「うん」
嗚咽混じりなのに、咲希は急かすことなく静かに聞いてくれている。
「私に……愛を、。愛、を、教えてくれたの……」
「うん」
「でも、私……会ったばかり、だからって……好きって、言えなくて……」
「うん……」
「あきっ、明人に……好きって、好きって……言えば良かった……。言いたかっ、た……!!」
「うん……」
一昨日海で出逢って、私たちは、お互いに恋をしていた。
お互いのことを詳しく知らないのに、それでも、この好きという気持ちだけは、間違いなく本物だって。
胸を張って言いたい。……ううん。胸を張って言うよ。
明人は夢なんかじゃなかった。ちゃんと生きていて、隣で同じ曲を聞いて、一緒にかき氷を食べた。
一瞬のように思えたけど、明人が生きた証はちゃんと私の中にある。
明人はいないけど。それでも、明人が教えてくれたこの愛を胸に、これからは、いろんな愛のカタチに触れていこう。
親の愛情を感じられず、愛を欲しがった私が、誰かを想う日が来るなんて思いもしなかったけど、私も出会えてよかったよ。明人。
───ねぇ、明人。
私、明人のおかげで変われた気がするんだ。
だから、空の上から見守ってて欲しい。聞いてて欲しい。
明人が好きになったっていう曲、ずっと口ずさむから。
明人に向けた笑顔を、これからいろんな人に向けていくから。
明人や明人が愛する人達、特攻隊のみんなが安らかに眠っていること、この声が明人に届いていることを、祈っています。

