あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


「親父はね、ずっと心臓を悪くしていて、本当は店を開けられるような状態じゃなかったんだ。僕たちが『もう店を畳んで入院してくれ』って何度も頼んだんだけど、でも親父は聞かなかったんだ。『あそこに明かりを点けて店を開けておけば、話し相手になってくれる人が誰かしら来てくれるから』って……昔から、親父は人との出会いを大切にする人だったから。無理して、店に立ち続けてたんだよ」

息が詰まり、胸が潰れそうだった。
確かに、おじさんはあの時も言っていた。
久しぶりにこの家で人と話せて嬉しいって。
だけど、おじさんがこんなに深刻な状態だったとは思いもしなかった。
ただ、寂しかったんだな、くらいにしか、思わなかったのに……。
私たち……本当に周りが何も見えていないんだ……。
自分たちのことばかりだった……。

廊下でしばらく話をしていると、病室から看護師さんが出てきて、私たちを病室に入れてくれた。

唾をゴクリと飲み込んで病室に入ると、おじさんはベッドの上で無数の管とピピピと一定音を刻むモニターに繋がれ、小さく横たわっていた。

「おじさん」と声をかけても、返事はない。
あんなに大きくて温かかった手には点滴が刺さり、規則的な人工呼吸器の音だけが虚しく響いている。
自力で起き上がることも、私たちの報告を聞いてあの時のように笑ってくれることもない。

なんで……なんで、あの日、何も言ってくれなかったの?
初対面の私たちの悩みだけ聞いて、笑って優しく包み込んでくれて。
おじさんの言葉に救われたのに、私たちは……。
私たちは、おじさんの抱える問題に全く気づかず、戻ってしまったんだ……。
『第2の家だと思って、いつでも来なさい』って、あの時、言ってくれたのに……。

その言葉を思い出した後に、ハッとした。

『たまに、おじさんのことを思い出してくれたら』って……。
『必ず、ここで待ってるから』って……。

その言葉に、いろんな意味が込められていた?

おじさんは何も表情に出していなかったから、もちろん気付くわけもないんだけど……。
なんでか、悔しくてやるせなくて、自分が許せなかった。