「白波先輩。知ってますか?私、ずっと白波先輩の音に憧れてたんです。私の目標はいつだって白波先輩でした」
「……松下さん」
「やっぱり……白波先輩には敵いません。すごいです!先輩。戻ってきてくれて、ありがとうございます!九州大会、頑張ってください!」
松下さんの目は、今まで自分が嫉妬していたことが恥ずかしくなるくらいキラキラと輝いていた。
ああ……本当に音楽が好きなんだなって、そう思った。
私は松下さんの言葉に強く頷いて、頬に流れる涙を拭った。
緊張から解放されて、がたがた揺れる足で音楽室のドアを開けると、廊下の壁に背を預けて立っていた律がいた。
足元には放り出された松葉杖。
激しい演奏が全部届いていたのだろう、律の黒い瞳は力強く潤み、見たこともないほど誇らしげに揺れていた。
「……あおば。全部、聞いてた。すげーな、おまえ」
私は答えず、ただ、微笑んだ。
そして、カバンから使い捨てカメラを引っ張り出し、廊下の窓から見える夕陽にレンズを向ける。
ジー、ジー……。
律が怪我をしてから私が持つようになった、この使い捨てカメラ。
一つ一つ記録されていく私たちの日常は、きちんと撮れているかな?
「受かったよ、律……。私、やっと、自分の音が、出せたような気がする」
私はバインダーを覗きながら言った。
「うん。知ってる。……お前の音が、一番かっこよかった」
『パシャッ』
ファインダーの向こう、現像するまで正解なんて分からない一枚のフィルムの中に、最高に熱く愛おしい、私達だけの「答え」が鮮やかに切り取られる。
シャッターを押して律を見ると、律もどこかすっきりした表情で夕焼けを見上げていた。
