あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


マウスピースに唇を押し当てる。
肺が引きちぎれるくらい、深く息を吸い込んだ。

……一音目が、弾けた。

きれいじゃない。
松下さんみたいな清廉(せいれん)な音なんかじゃない。
わずかに削れ、掠れ、生の吐息の湿り気を帯びた、少し乱暴な音色。
管体が激しく振動し、私の手のひらを、肋骨を、心臓を直接揺さぶる。

私……。
私が吹きたかった音楽って、これだったのかもしれない。
これが、私の音だ……。

『正解の音』なんて、最初からどこにもなかったんだ!

上手に吹けなくていい。
格好悪くてもいい。傷ついて、泥をなめて、足掻いて……これが私の生きてきた全部!!

指が血を噴くような勢いで動き出す。
頭の中で、視界が真っ赤に染まっていく。
あの日、霧島で聞いた、土砂降りの雨の音。
暗闇のなか、肩が触れ合うたびに跳ね上がった鼓動。
使い捨てカメラの、乾いた「ジー、ジー」という巻上げ音。
「そんな顔するな」って、耳まで真っ赤にして横を向いていた、あの愛おしい瞳。

譜面なんていらない。
溢れ出す感情のすべてを、怒りも、恋も、悔しさも、感謝も、全部まとめて息に乗せて管の中にぶち込む。
高音が音楽室の天井を突き破り、夕暮れの空へと駆け上がっていく。