あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


オーディションまでの残り数日。
私の夏休みは、人生で一番激しく、甘く、熱い音を立てて過ぎ去ろうとしていた。

あの日以来、私は放課後や部活の合間を縫ってグラウンドへ向かうようになった。
律の足の回復は思った以上に早かった。
まだ松葉杖は手放せないものの、ドクターの許可が出たらしく、グラウンドの隅でリハビリのストレッチを始められるまでになったんだ。

猛暑のグラウンド。
律の襟足から汗が滴り落ちるのを見て、私はトランペットを持ったまま購買前に設置されてある自販機でスポーツドリンクを買った。
ひんやりと冷えたペットボトルを手にした瞬間、あの時の律の表情がパッと思い浮かんだ。
県大会で私が逃げ出した時、外で長時間私を待ってくれたいた律が。
日陰のブロックに腰掛けて、汗だくになりながらもじっと私を待ってくれていた律は、私にとって物凄くかっこいいヒーローに見えた。
甘酸っぱい気持ちが全身から溢れ、自然と笑みが溢れてしまう。

夕暮れの風が吹くベンチで、私はトランペットを膝に抱えながら、黙々とストレッチに励む律の背中を見守った。
汗ばんだ首筋、痛みに耐えて歯を食いしばる横顔。
律の必死さが伝わってきて、私までもやる気が湧き上がってくる感じがした。

「……あおば」

フッと顔を上げた律と、視線が交差する。

「頑張ってるね、律。でも、あんまり無理しないで。焦ってまた痛めたら、元も子もないんだから」

私が声をかけると、律は素っ気なく「分かってるよ」とつむじを向けた。
けれど、私が差し出したスポーツドリンクを受け取ると、照れくさそうにボソッと呟いた。

「お前もな。……トランペット、音変わったな。霧島に行く前より、ずっと真っ直ぐ届いてる感じがする」

不器用な、律なりの応援。
その一言が、私の胸を熱く焦がす。