あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


前髪の間から覗く律の黒い瞳が、神崎先輩を鋭くとらえていた。
真っ赤になった私の顔と、耳元で甘く囁いていた神崎先輩。
それを、交互に見てくる。

律は痛むはずのギプスをはめた足を引き摺りながら、猛烈な勢いで教室の中へと踏み込んできた。
痛みを忘れたかのような荒々しい足取りで、私の腕をガシッと掴むと、力任せに神崎先輩から引き剥がした。

「……あおば!!」

痛いくらいの力で手首を引っ張られ、私は律の胸元へと抱き寄せられる。
律の体温が、激しい心臓の鼓動とともに直に伝わってきた。

「り、律!?何やってんの?あ、足!」
「君……白波さんの幼馴染……だったっけ?そんな無茶して飛んでくるなんて、どうしたの?その足、大事にしないと」

神崎先輩は離された手をポケットに突っ込むと、どこまでも余裕のある、けれど少し寂しそうな笑みを浮かべた。
律の必死な表情を見て、神崎先輩は肩をすくめる。

「白波さんも大変だね。こんなに感情爆発させるヤツが近くにいて」
「うるせぇ……黙れよ。あおばにこれ以上気安く話しかけるな」

低く、地鳴りのような律の声。
怪我の痛みすら忘れて、律は今まで見せたこともないような凄まじい眼光で神崎先輩を射殺しそうに睨みつけていた。

神崎先輩はそんな律の睨みを愛おしそうに見つめると、最後にもう一度私に向かって悪戯っぽく微笑んだ。

「白波さん。オーディション、頑張って。俺、白波さんの音、好きだから」

先輩はそれだけ言い残すと、最後まで誰も追いつけないほどスマートに教室を去っていった。