あの夏、残り3%の君と、世界でいちばん綺麗なサボり方をした


神崎先輩は私の隣に腰を下ろすと、パートリーダーよりも的確に私の癖を見抜き、息の通し方を教え始めた。
驚くほど分かりやすい指導に、私は「すごい……!」と夢中で耳を傾けた。

「今のを意識して、ちょっと一回吹いてみて」

神崎先輩に言われ、トランペットに息を送り込む。
すると……。
今まで割れていた高音が、どこまでも真っ直ぐ、心臓を貫くように伸びていったんだ。

「……高音……出た」

自分でも、驚いた。
神崎先輩の少しのアドバイスで、こんなにも自分から出る音が変わるなんて……。

一通りのアドバイスを終えると、神崎先輩はふっと口元を緩め、私だけに聞こえるような低い声で顔を近づけてきた。

「……実はさ、ずっと前から白波のこと見てたんだよね」
「え……?」

不意打ちの言葉に、私は息をのんだ。
神崎先輩はどこまでも甘く、綺麗な目をして私を見つめている。

「必死に練習してる姿、物凄くカッコよかったよ」

……え、先輩?

「戻ってきてくれて、俺、嬉しい」

耳元で囁かれた、あまりにも甘くて罪な吐息。
自分でもはっきりわかるくらい、顔が一瞬で真っ赤に上気していくのが分かった。
まったく予想していなかった先輩からの告白めいた言葉に、耳まで熱くなり、固まってしまう。

『ガタンッ!!!』

その瞬間、廊下で激しい衝撃音が響いた。

ドアの隙間から見えたのは、床に放り投げられた松葉杖と、肩を猛烈に上下させて立っている律だった。