「先生……九州大会のメンバー枠を争うオーディションを、もう一度受けさせてください!私の本当の音色を聴いてほしいんです!!」
静まり返る音楽室。
「先生、お願いします!もう、絶対に逃げたりしません!もう一度、チャンスをください!」
泥を塗った過去を抱えたまま、それでも泥臭く「自分の音」を聞いて欲しかった。
私にしか出せない音が、あったはずだから。
深く頭を下げる私に、先生が大きく息を吐いた。
「……来週の金曜日に最後のオーディションを行う。対象は、白波と……松下だ」
松下さんは、以前からそのつもりでいたかのように、顧問の言葉に深く頷いた。
「二人とも、1週間で自分の音を証明してみせなさい」
先生の力強い言葉に、私と松下さんは「はい!!」とはっきりと返事をした。
「いいか。白波のしたことは、あまりいいことではないが……おまえの音は、先生が認める。もう一度、這い上がって来い」
「ありがとうございます!!」
その日から、私のアドレナリンが弾けるような死に物狂いの自主練が始まった。
オーディションに向けた練習三日目。
放課後の空き教室で、私は同じパートの先輩たちとパート練習に励んでいた。
だけど一週間のブランクは重く、焦れば焦るほど音の端々が硬くなっていく。
『トントン』
控えめなノックの音とともに、教室のドアが開いた。
そこに立っていたのは、トロンボーンパートの3年、神崎先輩だった。
部一番の演奏技術と圧倒的な華を持ち、楽器の似合うイケメンとして、校内中にファンがいる、みんなの憧れの的。
「ちょっといい?パートリーダー」
神崎先輩はうちのパートリーダーに爽やかに断りを入れると、すっと私の前まで歩いてきた。
シトラスの甘い香りがふわりと漂い、緊張で私の背筋が伸びる。
「白波さん、高音に行くときだけど、いつも無意識に顎が上がって息の支えが外れてるんだ。ほら、楽譜のここ」
