「親父に話したいことはたくさんあるけど、その前に……」
律は、私の両親に視線を移した。
「おじさん、おばさん。勝手にあおばを連れ出したりして……連絡が取れないように、スマホの電源を切ったりして……心配かけてすみませんでした」
そして、律が、私の両親に向かって頭を下げる。
私の両親は、お互い目を見合せ、ただ静かに律の言葉を聞いていた。
「おじさんと、おばさんにも聞いてほしいです。俺の悩みと、あおばの悩み」
律の言葉に、お母さんが私を見た。
だけど、私はお母さんから目をそらしてしまった。
怒られるからとか、後ろめたいからとかじゃない。
本音で話したとしても、どうせわかってもらえないんじゃないかって思ったから。
「昨日、あおばにも話したけど、俺……疲労骨折をした時、実は、ちょっとホッとしたんだよ。怪我のせいにして逃げられるって思った。成績も、親父の期待に簡単に応えられなかったし、サッカーだって最近、どんなに練習してもうまくいかないことが増えてきて、正直、色々怖かったんだ。それで、恐怖から逃げ出した……それは、事実」
律の言葉は止まらない。
「親父は『怪我をしたなら、サッカーを辞めて勉強しろ』って言ったよな!そん時、俺、めちゃくちゃ悔しかった……。勉強がダメなら、サッカーで認めてもらおうって必死にやって……だけど、こういう結果になって……。何をやっても中途半端で何もできない自分に、物凄く腹が立って仕方がなかった」
……律。
「でも……俺がこの怪我に救われるくらい、色んなことに追い詰められてたこと、親父は一回でも気づいてくれたか!?疲労骨折するくらいガムシャラにやったのも、全部『期待に応えられない俺』が嫌だったからだ!サッカーを取ったら俺には何も残らないのに、そのサッカーすら怖くなって……全部が嫌になったんだよ!」
律のお父さんが拳を握りしめたまま絶句する。
「でも、昨日……ある人に言われたんだ。『サボるってことは、心がこれ以上進むと壊れるぞって教えてくれた大事なブレーキなんだ』って。『罪悪感なんか持たずに思い切り立ち止まれ』って!……俺、ずっとアクセル踏みっぱなしで壊れかけてたんだよ!親父の言いなりになって、いい大学に行って、いい大人になるために走ってたんじゃない!俺はただ、サッカーが好きだっただけなんだ!」
律の叫びが、真夏の空にどこまでも響き渡る。
「だから俺は、自分で自分にブレーキをかけた!親父の『道具』になるのを辞めるために逃げたんだ!怪我が治ったら、俺はもう一回自分のためにサッカーをやる。大学の偏差値のためでも、親父のプライドのためでもない。俺が、俺の足でもう一度ピッチに立ちたいからやるんだ!!」
