ふと律を見ると、静かにスマホを取り出していた。
昨夜まで触れることすら怖かった電源ボタンを、長押しする。
画面が明るくなり、怒涛のように押し寄せる通知の数々。
わかっていた現実だけど、その通知の想像以上の量に、一瞬ピクリと律の眉が揺れた。
きっと、激怒した両親や心配した部活の仲間たちが私達を探しているはずだ。
けれど、律の瞳にもう怯えはなかった。
昨夜まであれほど重くまとわりついていた迷いは消え、凛とした強い光が宿っている。
「……よし。帰ろう、あおば」
律が力強く言った。
怪我をしてしまった足も、父親からの、成績が上がらなければ退部させるという現実も。
それに、サッカー部でエースであるプレッシャーも、正直、何一つ消えてはいない。
吹奏楽部から逃げ出した私の罪悪感も、戻れば厳しい現実に変わる。
そして、お互いの両親のもとに帰れば、とんでもない説教が待っていることも分かっている。
だけど、どうしてか、私達はもう大丈夫。
そう、思えるんだ。
傷ついて、逃げ出して、カッコ悪く立ち止まった昨日の雨の夜。
おじさんからもらった言葉と、分け合った体温と、現像するまでわからない使い捨てカメラの中のカッコ悪い私達が、これからの私達をきっと、ずっと支えてくれると思う。
私達は前に進むために、一歩を踏み出す。
「うん!帰ろう!」
私は深く頷き、晴れ渡った空の下、律と並んで改札をくぐった。
世界の端っこで見つけた「一番大切な選択」を胸に抱いて、私達は自分たちの足で、元の日常へと歩き出した。


